この記事のポイント
- バレーボール男子日本代表「龍神NIPPON」が世界バレーでカナダに完敗。51年ぶりのメダル獲得という壮大な夢は、悪夢のような予選敗退で幕を閉じた。
- なぜ勝てなかったのか?その裏には①生命線を断たれた戦術、②初戦敗北が招いた見えない重圧、③機能不全に陥ったティリ采配、という根深い3つの要因が絡み合っていた。
- 特に、各セットで喫した「6連続失点」は日本の脆さを象徴する悪夢の時間帯。カナダの高さと戦略の前に、なす術なく崩れ去った。
- 「何もできずに終わった」――主将・石川祐希の慟哭。この絶望的な敗戦から、チームはいかにして立ち上がるのか。未来への試金石となる。
「なぜだ…」龍神NIPPON、悪夢の予選敗退。51年ぶりの夢を打ち砕いた“3つの壁”の正体
「まさか、こんなにも早く…」
あなたも、フィリピンから届いた一報に言葉を失った一人ではないだろうか。2025年バレーボール男子世界選手権、予選ラウンド2戦目。我らが龍神NIPPONは、カナダを相手にセットカウント0-3(20-25, 23-25, 22-25)という、あまりにも無力なストレート負けを喫した。初戦のトルコ戦に続く連敗で、決勝トーナメント進出の道は完全に断たれた。まさかの、予選敗退だ。
1974年大会以来、実に51年ぶりとなるメダルへ。私たちの期待は、これ以上ないほどに高まっていた。その夢が、こんなにもあっけなく散ってしまうとは。主将・石川祐希が「何もできずに終わった」と唇を噛んだこの敗戦の裏側で、一体何が起きていたのか。
この記事は、私たちが共に目撃したあの敗戦の裏側で何が起きていたのか、選手の言葉、そしてデータから、その「真の敗因」を徹底的に解剖していく。この悔しさを、決して無駄にしないために。
なぜ勝てなかったのか?龍神NIPPONを蝕んだ「3つの病巣」
カナダ戦でのストレート負けは、決して偶然起きた事故ではない。そこには、戦術、メンタル、そして采配という、根深く、そして複合的な要因が絡み合っていた。ここからは、龍神NIPPONを敗北へと追いやった3つの病巣を、一つずつ切り開いていこう。
要因1:生命線はなぜ断たれた?カナダの「壁」に封殺された日本の心臓部
近年の日本の躍進を支えてきたはずの、強力なサーブで相手を崩し、ブロックとディフェンスで粘り勝つ「サーブ&ブロック」。それが、この試合では全くと言っていいほど機能しなかった。いや、「させてもらえなかった」と言うべきか。
立ちはだかったのは、カナダの高く、そして厚いブロックだ。日本の攻撃はことごとく跳ね返された。第1セットだけで浴びたブロックポイントは、実に6本。
6本のブロックを浴びて、第1セットを20-25で失った。
しかも彼らは、ただ腕を伸ばしているだけではない。「日本の指先を狙った巧みなブロックアウトで得点を重ねる」狡猾さまで見せつけたのだ。これでは、日本の攻撃陣はたまったものではない。リズムを失い、サーブレシーブが乱れれば単調なトスを上げるしかない。それは、待ち構えるカナダにとって格好の餌食だった。
この悪夢、どこかで見た光景だと思わないだろうか。そう、初戦のトルコ戦だ。2連敗に共通する「見えないエラー」の正体。それは、サーブで崩せず万全の相手に攻められ、逆にこちらの攻撃は高い壁に阻まれるという、絶望的な負のスパイラルだったのである。
要因2:「まだトルコ戦を引きずっている…」コートに渦巻いた見えない重圧
格下と見ていたトルコ戦のまさかのストレート負け。私たちが想像する以上に、あの敗戦は選手たちの心に重く、深くのしかかっていた。試合後、主将の石川祐希は、その苦しい胸の内を正直に明かしている。
トルコ戦からの敗戦から切り替えられずに、切り替えて臨んだつもりだったんですけど、結果から見ると切り替えられなかったのではないかなというふうに思ってます。
「負ければ終わり」――その崖っぷちの状況が、チームからしなやかさを奪い、硬直させた。第1セット、そして第2セットで喫した「6連続失点」。あの悪夢を、あなたも目撃したはずだ。一度崩れた流れを誰も断ち切れないまま、ズルズルと失点を重ねていく。髙橋藍が「まだまだやれた部分はあったんじゃないかなっていう、ちょっと悔いが残る試合でした」と唇を噛んだように、彼らは本来の力を出し切る前に、焦りという名の魔物に飲み込まれてしまったのだ。
要因3:ティリ監督の賭けはなぜ実らなかったのか?「フランス式」への不協和音
もちろん、就任1年目のロラン・ティリ監督も手をこまねいていたわけではない。後のない第3セット、彼は賭けに出た。セッターを大宅から永露へ、アウトサイドヒッターを石川から大塚へ、ミドルブロッカーを小野寺から佐藤へ。スタートメンバーを大幅に入れ替えるという大胆な采配だ。
その狙いは明らかだった。停滞した空気を変え、新たなリズムを生み出す。事実、この交代策で序盤は一進一退の攻防となり、光明が見えたかに思えた。だが、中盤に日本のミスからカナダに抜け出されると、最後までその背中を捉えることはできなかった。
ここで我々は、問わねばならない。「ティリ監督の“フランス式バレー”は、本当に今の日本にフィットしているのか?」と。もちろん、就任1年目で戦術が浸透しきらないのは仕方ない。だが、この絶対に負けられない一戦で、劣勢を覆すための共通認識、チームとしての一体感は、果たしてどこまで醸成されていたのだろうか。今回の敗戦は、ティリ監督のチーム作りそのものに、大きな課題を突きつけた試合だったと言えるだろう。
数字は嘘をつかない。スタッツが暴く「完敗」の決定的証拠
コート上で起きていたことを、より冷徹に、客観的に見てみよう。報道されている断片的な数字だけでも、日本の苦戦がいかに深刻だったか、痛いほど伝わってくる。
絶望的な「壁」の高さ:ブロックポイントの差
繰り返すが、第1セットだけで浴びたブロックは「6本」。バレーボールにおいて、スパイクを直接叩き落されるこの1点は、数字以上のダメージをチームの士気に与える。これが試合開始直後に集中したのだ。日本は最後まで主導権を握れないまま、ただカナダの高い壁を見上げることしかできなかった。
悪夢の「6連続失点」:流れを掴めない脆さ
最も深刻なデータは、第1セットと第2セット、いずれも「6連続失点」を喫したという事実だ。この数字が、どれほど重い意味を持つか、お分かりだろうか。これは、一度相手に傾いた流れを、自力で断ち切る術を持っていなかったことの証明に他ならない。トップレベルの戦いにおいて、これほどの大差がつく連続失点は、まさに致命傷だ。メンタル面の課題が、残酷なまでに数字となって表れてしまった。
生命線か、命取りか。紙一重だった「攻めのサーブ」
日本の最大の武器であるはずのサーブも、結果として明暗を分けた。髙橋藍や石川のサービスエースで1点差に肉薄するなど、希望の光が差した場面は確かにあった。だが、最も重要な局面で、その光は掻き消された。第2セット、23-24と猛追したあの場面。誰もが息をのんで見守った日本のサーブは、無情にもネットにかかった。攻めのサーブは諸刃の剣だ。しかし、この大一番では、その刃が自分たち自身を傷つける結果となってしまった。
主将・石川祐希の慟哭。「僕たちは力がない」発言に隠された覚悟
誰よりもこの敗戦の重みを背負っていたのは、やはり主将の石川祐希だった。試合後、彼が絞り出した言葉には、我々の胸を締め付けるほどの苦悩と無念さが滲んでいた。
「本当に何もできずに終わったこの世界選手権でしたし、ワンシーズンだったというふうに思うので、反省とともにまた次に向けて進みたいと思います」
この「何もできずに終わった」という言葉を、あなたはただの謙遜と受け取るだろうか?いや、違う。これはキャプテンとしてチームを勝たせられなかったこと、自らの力で流れを変えられなかったことへの、痛切なまでの自己評価だ。彼の口から紡がれたのは、チームへの警鐘だった。
この結果を見て僕たちは力がないチームだというふうに改めて感じたので、もう一度一人ひとりが成長しなければいけないと思いますし、もう本当に何もできずに終わったこの世界選手権でしたし、ワンシーズンだったというふうに思うので、反省とともにまた次に向けて進みたいと思います。
「僕たちは力がない」。なんと厳しい言葉だろうか。だが、これは絶望ではない。厳しい現実を真正面から受け止め、ここを新たな出発点にするという、主将としての強烈な覚悟の表れだ。警戒していたカナダに、世界選手権という大舞台で完膚なきまでに叩きのめされた悔しさ。その全てを背負い、彼はすでに「次」を見据えている。このキャプテンの姿こそが、今後の龍神NIPPONにとって最大の希望ではないだろうか。
「夜明け前が一番暗い」この敗戦から、龍神NIPPONは何を掴むのか
世界バレーでの、まさかの予選敗退。それはカナダという強敵を前に、戦術、メンタル、チーム構築の全てにおいて課題が噴出した、必然の結果だったのかもしれない。
だが、ここで下を向いて終わりではない。いや、終わらせてはいけない。石川が語ったように、この敗戦は新たな始まりの号砲なのだ。
まずまだ一試合残っているので、まずそこに対してどう向き合っていくかっていうところと。次の一戦はこの後来年のアジア選手権とか、もっと大事な試合が残っているのでそこに向けたそこに繋がる一戦になるように戦いたい。
残されたリビア戦は、消化試合ではない。この底知れぬ悔しさをコートでどう昇華させるのか。そして、来シーズン、その先のロサンゼルス五輪へ向けて、チームがどう生まれ変わるのかを示す、未来への宣戦布告の場となる。
この敗戦を糧に、龍神NIPPONが乗り越えるべき壁は、あまりにも明確だ。
- 攻撃の進化:高いブロックを打ち破る、力だけではない速さと多彩なコンビを創造できるか。
- 勝負強さの確立:劣勢で流れを断ち切り、逆境を跳ね返すメンタリティと共通認識を築けるか。
- ティリ・バレーの完成:監督の理想と選手の個性を真に融合させ、揺るぎない化学反応を起こせるか。
髙橋藍は「自分たちの力がここまでだったところも認めるしかない」と現実を受け入れながらも、こう続けた。「強くなって、間違いなく…」と。
ファンとして、この結果はあまりに苦しく、悔しい。しかし、信じようではないか。夜明け前が、一番暗いのだと。この深い闇を乗り越えた先にこそ、本当の「夜明け」が待っていることを。さあ、もう一度、彼らに熱い声援を送ろう。
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