万博ビザで「帰りたくない」外国人急増。労働力不足の裏側

万博会場を背景にした多様な国籍の外国人たち。この記事では、万博ビザの問題点と日本の外国人労働者が直面する課題を解説します。 社会
万博は国際交流の機会となる一方、新たな社会問題を生む可能性も指摘されている。

この記事でわかること

  • 2025年の大阪・関西万博を訪れた外国人から「帰りたくない」という就労相談が行政書士に殺到している。
  • 正規ビザの壁に阻まれた彼らが、審査期間中に就労できる「難民申請」制度を、本来の目的とは違う「裏口」として利用する動きが常態化しつつある。
  • この万博ビザ問題は、日本の深刻な労働力不足と、実態にそぐわない在留資格制度の間に生じた「構造的な歪み」そのものだ。
  • 万博という巨大イベントが、日本の外国人材受け入れ、ひいては移民政策のあり方を根底から揺さぶっている。

導入:「帰りたくない」――万博の華やかな舞台裏で、静かに広がる不協和音

「またこの手のニュースか…」テレビから流れてきた速報を見て、そう思った人もいるかもしれない。

2025年、大阪・関西万博。世界中から人々が集い、未来を語り合うはずの華やかな祭典。しかし、その輝かしい光の裏側で、日本の未来を静かに、しかし確実に蝕む「不都合な現実」が進行していることを、あなたはご存知だろうか。

万博関連のビザで来日した外国人たちが、口々にこう訴えているという。「帰りたくない」。そして、正規の就労ビザが取れない彼らが最後の望みを託すのが、日本の「難民認定制度」なのだ。

万博用のビザで日本に入国しながら、生活環境の良さにそのまま居座ろうとする外国人が増えています。その相談を受ける行政書士に実態を聞きました。

万博で日本に入国…「帰りたくない」 就労ビザに切り替えたいとの … – テレビ朝日

これは、単に「ズルい外国人が増えた」という話ではなく、日本の外国人労働者問題、そして移民政策が抱える根深い矛盾が、万博という巨大な触媒によって一気に噴出した、まさに「事件」なのだ。本記事では、この万博ビザ問題の深層に迫っていく。

なぜ彼らは「帰りたくない」と叫ぶのか? 天国ニッポンと地獄の母国

一体なぜ、万博見物で来たはずの彼らは「帰りたくない」と訴えるのだろうか?その答えは、驚くほどシンプルだ。彼らの目には、日本が「天国」に、そして母国が「地獄」に映っているからに他ならない。

「なんで日本はこんなに便利なんだ」――一度知ったら戻れない、圧倒的な生活水準

外国人の在留手続きを支援する行政書士、松村麻里氏の元には、万博ビザで来日したアフリカ諸国の人々からの悲痛な叫びが連日届けられている。彼女が耳にするのは、こんな生々しい声だ。

「『帰りたくない』っていう。例えばエチオピアよりは、日本に居た方がいいわけですよ。お金的にも環境的にも。なんで日本はこんなに便利なんだと。それで『日本から出たくない』と」

万博で日本に入国…「帰りたくない」 就労ビザに切り替えたいとの … – テレビ朝日

考えてみてほしい。蛇口をひねれば綺麗な水が出て、電車は時間通りに来る。夜道を一人で歩いても身の危険を感じることは少ない。そして何より、働けば安定した収入が得られる。私たちにとって「当たり前」の日常が、紛争や貧困にあえぐ国から来た彼らにとっては、まさに「夢のような世界」なのだ。この強烈な引力こそが、「帰りたくない」という切実な願いの源泉となっている。

帰れない、帰りたくない。その言葉に隠された絶望

だが、彼らを突き動かすのは、日本の魅力だけではない。むしろ、その背後にある「帰りたくても帰れない」母国の絶望的な現実こそが、問題をより深刻にしている。今回報じられたエチオピアは、近年まで紛争が続き、多くの国民が貧困と政治不安の只中にいる。

彼らにとって日本滞在は、もはや観光ではない。人生をリセットし、家族を養うための、最後のチャンスなのだ。この問題は、日本と途上国の間に横たわる、残酷なまでの経済格差が生み出した「現代の駆け込み寺」とも言える。この現実から目を背け、彼ら個人を非難するだけでは、何一つ解決しないだろう。

なぜ「難民申請」が最強の裏ワザに? 日本のザル法が生んだ不都合な真実

日本に残りたい――。その強い願いを抱いても、真正面から「就労ビザ」の扉を叩くのは、ほぼ不可能に近い。そこで彼らがたどり着く「裏口」、それこそが本来、迫害から逃れた人々を救うための「難民認定制度」なのだ。なぜ、この聖域であるはずの制度が、抜け道として悪用されてしまうのか?

高すぎる「正門」の壁:なぜ就労ビザは夢のまた夢なのか?

想像してみてほしい。あなたが日本で働きたい外国人だとして、正規の就労ビザを取るために、どれだけの壁を越えなければならないかを。

  • まず、あなたを雇ってくれる日本企業を見つけ、正式な契約を結ぶこと。
  • 専門的なスキルや大学卒業以上の学歴を証明すること。
  • そして、ビジネスレベルの日本語能力があること。

万博を見るために短期で来た人が、これらの条件をいきなりクリアできるだろうか?答えは、言うまでもなく「ノー」だ。この高く閉ざされた「正門」が、彼らを別の道へと向かわせる。

究極の抜け道、「とりあえず難民申請」という禁じ手

正規ルートが絶望的な中で、彼らの耳にささやかれる魅惑的な言葉。それが「難民申請」だ。最前線で実態を見てきた行政書士の松村氏は、そのカラクリをこう明かす。

「『就労ビザ』で適法に取ろうとするとすごくハードルがあるので、とりあえず『難民申請しよう』みたいな感じの人もいる。難民申請した後ってどんな仕事でもできるんですよ。夜のバーでも働けますし、飲食店でも働けるし」

万博で日本に入国…「帰りたくない」 就労ビザに切り替えたいとの … – テレビ朝日

衝撃的な事実だが、これが現実だ。難民申請をすれば、結果が出るまでの間、日本に滞在し続けることができる。そして、ここが最大のポイントなのだが、審査を待つ間に、合法的に働ける「特定活動」というビザが与えられるケースがあるのだ。

平均2年11ヶ月の「ゴールデンタイム」:長すぎる審査期間という名の“バグ”

信じられるだろうか?難民申請をしてから結果が出るまで、今の日本では平均で2年11ヶ月もかかる。

今の制度では難民申請し、審査期間に入れば平均2年11カ月審査にかかります。その間、就労可能な「特定活動」というビザが与えられることもあります。

万博で日本に入国…「帰りたくない」 就労ビザに切り替えたいとの … – YouTube

つまり、たとえ最終的に難民と認められなくても(日本の難民認定率は絶望的に低く、令和3年は申請者2,413人中わずか74人(出典: Live to Business)だ)、約3年間もの間、合法的に日本で働き、お金を稼ぐ「ゴールデンタイム」が手に入ってしまうのだ。人道目的の制度が、結果的に「日本で稼ぐための裏ワザ」として完璧に機能してしまっている。これこそが、万博ビザ問題の核心に潜む、制度的な欠陥なのである。

【本質】万博が暴いた日本の「労働力不足」という病

さて、ここからが本題だ。この問題を「ズルい外国人が悪い」と切り捨ててしまうのは、あまりにも短絡的すぎる。少し、あなたの周りを見渡してみてほしい。コンビニで、飲食店で、介護施設で…外国人スタッフの姿を見ない日があるだろうか?

そう、この問題の根っこにあるのは、「働き手が欲しい日本」「働きたい外国人」の需要と供給が、制度の不備によって歪んだ形で結びついてしまった、構造的な病なのだ。

欲しいのは「労働力」、でも「移民」はイヤ――この国の身勝手なダブルスタンダード

今の日本は、少子高齢化によってあらゆる現場が悲鳴をあげる、深刻な「労働力不足」という病に罹っている。私たちは、もはや外国人労働者なしでは社会を維持できないところまで来ている。これが「労働力が喉から手が出るほど欲しい」という国の“本音”だ。

その一方で、政府は「移民政策はとらない」という“建前”を頑なに守り、在留資格を厳しく管理している。あくまで一時的な「労働力」として受け入れるが、社会の一員として定住することは想定しない。この「本音」「建前」の巨大な矛盾こそが、すべての歪みの根源なのだ。正規のパイプが詰まっているから、難民申請のような歪な抜け道に、水が溢れ出しているに過ぎない。

万博はパンドラの箱か?華やかな祭典が日本の「矛盾」を世界に晒す

万博は、世界中の人々に日本の素晴らしさを見せるショーケースだ。しかしそれは同時に、豊かな日本と貧しい国々との残酷なまでの格差を、来日した人々の目の前に突きつける場でもある。

今回の問題が示しているのは、万博が期せずして、グローバルな格差と、日本の国内問題(労働力不足と移民政策の矛盾)が交差する「パンドラの箱」を開けてしまったという事実だ。経済効果という光の裏で、日本社会が抱える脆さが、今まさに世界に露呈しようとしている。

このまま見て見ぬフリを続ければ、どうなるか?社会保障コストの増大、治安の悪化、地域社会との軋轢…。万博ビザ問題は、私たちに「この国は、外国人政策について本気で考える覚悟があるのか」という、最後の問いを突きつけているのだ。

まとめ:もう「見て見ぬフリ」は許されない。私たちは未来をどう描くのか?

大阪・関西万博をきっかけに噴出した、この万博ビザ問題。これは一過性のゴシップではない。日本の未来を左右する、避けては通れない重いテーマだ。

感情論で「けしからん、追い出せ」と叫ぶのも、「可哀想だから受け入れろ」と同情するのも簡単だ。だが、本当に必要なのはそんなことではない。この現実を直視し、持続可能でフェアなルールを、私たちの手で作り上げることだ。

さあ、議論を始めよう。

  • 今の日本の労働市場に合った、現実的な就労ビザのあり方とは何か?
  • 本当に保護が必要な人を守るため、難民審査の迅速化と厳格化はできないのか?
  • 外国人を単なる「労働力」ではなく、共に社会を築く「隣人」として受け入れるためのビジョンはあるのか?

労働力不足という現実からは、もう逃げられない。ならば、どんなルールで、どんな覚悟を持って、彼らと共に未来を歩むのか。万博の華やかな光の裏で静かに広がるこの歪みは、もはや他人事ではない。この国の未来をどう形作るのか。その答えは、私たち一人ひとりの手の中にある。

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