この記事のポイント
- カブスは今永昇太の「年齢」と「被本塁打のリスク」を問題視。3年約87億円の長期契約に“待った”をかけました。
- 一方の今永は、1年約23億円の残留を拒否。なぜなら、先発投手が“不作”のFA市場で、100億円クラスの大型契約を勝ち取れるという“勝算”があったからです。
- このFA劇は、突然起きたわけではありません。すべてはデビュー時に結ばれた「活躍すれば抜け出せる、巧妙すぎる契約」のシナリオ通りだったのです。
- 今やFA市場の「目玉」となった今永。投手補強に飢えた複数球団によるマネーゲームは避けられない状況です。
「なぜだ?」――誰もが信じた残留。今永昇太はなぜカブスを去る道を選んだのか?
「衝撃だ」「信じられない決断だ」――。米メディアから速報が流れた瞬間、日米の野球ファンは耳を疑ったかもしれません。シカゴ・カブスの今永昇太が、フリーエージェント(FA)になる。メジャーで24勝を挙げ、ファンから「投げる哲学者」として愛された男の退団は、あまりに突然でした。
つい先日まで、カブスのGMは「ショウタについてはポジティブなことしか言うことがない」と、彼の功績を称賛していたはず。誰もが信じて疑わなかった残留。しかし、その水面下では、全く別のシナリオが動いていたのです。
なぜカブスは、3年87億円もの大金を惜しんだのか? そして、今永自身はなぜ、目の前に積まれた23億円という大金を突っぱねたのか? この「両者の拒否」によって成立した奇妙なFA劇。その裏側には、愛や忠誠心だけでは語れない、プロスポーツの非情な現実と、両者の緻密な戦略が隠されていました。
この記事では、まるでパズルのような契約のカラクリを解き明かし、カブスと今永、双方の胸の内をデータと共に徹底解剖。そして、熾烈な争奪戦が予想される彼の未来を大胆に予測していきます。さあ、衝撃のFA劇の真相に迫りましょう。
悪魔か、天才か。デビュー時から仕組まれた「FAへの脱出路」
このFA劇の謎を解く鍵は、彼がカブスと結んだ「巧妙すぎる契約」にあります。一見、ややこしいだけに見えるこの契約こそ、今回の全ての物語の始まりだったのです。なぜ、こんな複雑なルールになっていたのか?一緒に見ていきましょう。
「クビ」でも「裏切り」でもない。FA劇のカラクリとは?
あなたがまず知るべきは、今回のFAは「どちらか一方が裏切った」という単純な話ではない、ということです。すべては、決められた手順に沿って進みました。
ステップ1:球団の選択(カブス側)
まずボールを投げたのはカブスでした。彼らには「2026年から3年間、総額約87億円で今永と契約延長しますか?」という選択肢がありました。
RONSPOの記事が伝える通り、カブスの答えは「NO」。彼らはこのオプションを行使しないことを選んだのです。
ステップ2:選手の選択(今永側)
カブスが「NO」と言ったことで、ボールは今永の手に渡りました。彼に与えられた選択肢は「では、2026年の1年間、約23億円でカブスに残りますか?」というもの。
そして、Full-Countなどの報道の通り、今永サイドの答えもまた「NO」。この瞬間、彼は晴れてどの球団とも自由に交渉できるFA選手となったわけです。
つまり、これはケンカ別れではありません。お互いが「この条件では契約しない」という意思を示した、いわば“合意の上での破局”だったのです。
代理人は知っていた。活躍すれば「抜け出せる」契約の真実
「なんだ、球団に都合のいい契約じゃないか」――そう思ったかもしれません。しかし、話はそう単純ではありません。「過去5〜6年のFA契約の中でも最も巧妙かつ価値の高い契約のひとつだ」――MLBの契約を知り尽くした専門メディア「MLB BLOG.JP」がそう絶賛するのには、理由があります。
この契約、実は今永サイドにとって「もしメジャーで大活躍したら、もっと良い契約を求めて市場に出る」という選択肢を、最初から残してあったのです。最初の2年で実力を証明し、自らの意思でFA市場という大海原に飛び出せる――。そんな「FAへの脱出路」が、この複雑な契約には初めから仕組まれていたのです。なんと恐ろしく、そしてクレバーな戦略でしょうか。
カブスはなぜ87億円を蹴ったのか?データが暴く「3つの不都合な真実」
それにしても、なぜカブスはファンに人気の高い今永との長期契約に踏み切らなかったのでしょうか。GMが語る美辞麗句の裏には、データに基づいた、あまりにも冷静でシビアな判断がありました。
真実①:栄光からの転落?勝負所で露呈した「脆さ」
今永のメジャーでの2年間は、天国と地獄でした。もしあなたがGMなら、この成績を見てどう判断しますか?
- 1年目(2024年): 15勝3敗 防御率2.91。サイ・ヤング賞投票5位という、漫画のようなデビュー。
- 2年目(2025年): 9勝8敗 防御率3.73。故障もあり、数字は明らかに下降。
特に球団が重く見たのは、大舞台での弱さかもしれません。複数の米メディアが報じた通り、キャリア初のポストシーズンでは2試合で防御率8.10と大炎上。栄光のシーズンから一転、最も重要な場面で結果を残せなかった事実は、長期契約を結ぶ上で無視できない懸念材料となったのです。
真実②:最大の武器が最大の弱点に?「被弾癖」という時限爆弾
今永の最大の魅力、それは打者の手元で浮き上がるような魔球ストレートです。しかし、諸刃の剣とはよく言ったもの。このボールは、時にスタンドまで運ばれるリスクを常に秘めています。この点は米メディアも容赦しません。
フライボール投手だった彼はカブスでの2シーズンで58本を被弾している
データ野球全盛の現代MLBにおいて、「一発病」は致命的です。守備の影響を取り除いた投手の真の実力、FIPという指標を見ると、1年目の3.72から2年目には4.86へと急落。この数字が、カブス首脳陣に「彼に長期契約を託すのは危険だ」と囁いたことは、想像に難くありません。
真実③:抗えない「老い」の波。35歳の彼に大金は払えない
そして、最も非情で、最も重要なファクター。それが「年齢」です。今永は現在32歳。もしカブスが3年の契約延長をすれば、契約が終わる頃には35歳になっています。投手のパフォーマンスが下り坂に入る年齢に、巨額の投資をできますか?米ファンサイトの指摘は、もっと辛辣です。
契約を(計)5年に延長すれば、今永は30代半ばとなり、さらに2026年オフにはロックアウトの可能性もあるため安易に契約に踏み込むのは難しい状況だった
カブスは今永を優秀な投手だと認めつつも、チームの未来を何年も託す「絶対的エース」とは見なさなかった。それが、今回の決断の核心だったのです。
なぜ今永は23億円を捨てた?「不作の市場」で描く一発逆転のシナリオ
では、今永サイドはどうでしょう。1年23億円といえば、とてつもない大金です。なぜ彼は、その安定した未来を蹴ってまで、不確定なFA市場に飛び込むのでしょうか。答えはシンプル。彼と彼の代理人は、今年のFA市場を完璧に読み切っていたからです。
「今しかない」――最高のタイミングで市場に出るという“賭け”
彼らが踏んだ最大の勝機。それは、今年のFA市場が、超がつくほどの「先発投手不足」であるという事実です。米ヤフースポーツなどの見立てによれば、今永は市場にいる先発投手の中でトップクラスの一人。まるで、品薄の高級ブランド店にたった一つだけ残った人気商品のように、彼の価値は、今、天井知らずに高騰しているのです。
投手が欲しくてたまらない球団はたくさんあるのに、市場に良い投手がいない。この絶好のタイミングを逃す手はない。今永サイドは、そう判断し、FAという“賭け”に打って出たのです。
目指すは100億円超え。彼の価値は本当にそこまであるのか?
彼らが狙うのは、目の前の23億円ではありません。その先にある、3年100億円クラスの「人生を変える契約」なのです。
「2年目の成績では無理だろう」と思うかもしれません。しかし、メジャー1年目に見せたサイ・ヤング賞級のピッチングの記憶は、今も鮮烈に各球団の脳裏に焼き付いています。被本塁打のリスクを差し引いても、「計算できるサウスポー」は喉から手が出るほど欲しい存在。今永サイドは、「3年総額6000万ドル(約90億円)~4年総額8000万ドル(約120億円)」という、カブスの提示を遥かに超える契約を勝ち取れると、確信しているに違いありません。
マネーゲーム勃発!「投げる哲学者」を巡る5球団の思惑
さあ、FA市場の主役となった今永昇太。彼の新たなユニフォームは何色になるのでしょうか。札束が飛び交うマネーゲームが、今、始まろうとしています。
1. ボストン・レッドソックス
名門再建へ、投手陣の立て直しは待ったなし。日本人選手との縁も深く、エース格として迎え入れる準備は万端か。
2. ニューヨーク・メッツ
世界一のためなら金に糸目をつけない大富豪オーナーのチーム。千賀滉大との「日本人Wエース」結成は、夢物語ではない。
3. ロサンゼルス・エンゼルス
大谷翔平が去り、新たなスターを渇望するチーム。長年の弱点である投手陣の柱として、白羽の矢が立つ可能性は十分にある。
4. サンフランシスコ・ジャイアンツ
投手有利な本拠地を持つ西海岸の強豪。フライボールピッチャーである今永の弱点を、球場がカバーしてくれるという最高の相性も。
5. シカゴ・カブス(再契約)
まさかの“出戻り”シナリオもゼロではありません。MLB公式サイトも指摘するように、市場価格を見極めた上で、より有利な条件で再契約を結ぶという、したたかな戦略も考えられます。
この決断は吉と出るか、凶と出るか。今永昇太が仕掛けた“最後の勝負”
今永昇太がFAになった理由。それは、カブスが「未来のリスク」に怯え、今永が「市場での価値」に賭けたから。そこにあったのは、感傷的な別れではなく、双方にとってあまりに合理的で、そして少しだけ非情なビジネスジャッジでした。
これは「退団」という後ろ向きな話ではありません。今永昇太が、自らの腕一本で掴み取った「人生を賭けた大勝負」なのです。メジャー1年目の活躍が証明したように、彼の価値は本来、数年で100億円を超えるレベルにあるのかもしれません。
「投げる哲学者」は今、マウンドの上ではなく、FA市場という名のチェス盤で、次の一手を冷静に見据えています。この大胆な決断が、彼のキャリアをさらに輝かせる最良の一手だったと証明されるのか。熾烈なマネーゲームの末に彼が袖を通すユニフォームは一体何色なのか。このオフ、最大の注目選手から目が離せません。

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