【なぜ】山本由伸GG賞“候補外”に異論殺到。WS好守も選ばれない理由

マウンド上で軽快にゴロを処理する山本由伸投手。ゴールデン・グラブ賞級と評されるも選出漏れとなった守備シーン。 スポーツ
ワールドシリーズで見せた完璧なフィールディングも、選考には影響しなかったのだろうか。

この記事のポイント

  • 「なぜ山本由伸が選ばれない?」その理由は、ファンの“印象”と専門家が重視する“記録(DRS)”の間にあったギャップにあります。
  • DRSとは「どれだけ失点を防いだか」を示す客観的データ。今のMLBでは、この数値が選手の守備力を測る絶対的な物差しの一つになっています。
  • 山本のDRSは+3(リーグ6位)。決して悪くない数字ですが、最終候補3名は全員が+6以上と、データ上では“残酷な差”がありました。
  • データ至上主義のMLBで、ファンの「記憶」「記録」に勝てるのか?この記事を読めば、その答えと来季への期待が見えてきます。

完璧な守備、なのに選外。山本由伸に起きた「不可解な落選」の謎

「ありえない」――。そう思った野球ファンは、あなただけではないはずだ。

ワールドシリーズ第7戦、延長11回無死二塁。誰もが息をのむ究極の場面で、ドジャースの山本由伸が見せたあのプレーを、あなたは覚えているだろうか。三塁線へ転がった絶妙なバント。万事休すかと思われた瞬間、山本は獣のような俊敏さでマウンドを駆け下り、矢のような送球で打者走者を刺した。

あれはまさに、彼のワールドシリーズMVPを決定づけた伝説のプレー。日本で3年連続ゴールデン・グラブ賞に輝いた“守備の名手”が、ついに世界最高峰の舞台でその実力を証明した瞬間でした。

しかし、シーズンオフ。私たちは信じられないニュースを耳にします。守備の栄誉「ローリングス・ゴールドグラブ賞」の投手部門。その最終候補リストに、山本由伸の名前はどこにもなかったのです。

この衝撃的なニュースはFull-Countの記事でも報じられ、SNSはファンの怒りと悲しみの声で溢れかえりました。

「ゴールドグラブ賞受賞してもおかしくないと思うんやけど……」
「最終候補にも入ってないのか」
「彼以上に守れる人がいるのか」

山本由伸の“選出漏れ”に異論続出 WSで完璧処理も…SNS嘆き「候補にも入ってないのか」Full-Count11/9(日) 5:55

なぜ、あのスーパープレーを見せた山本由伸が候補にすら選ばれなかったのか? その謎を解くカギは、MLBの評価基準に隠された「DRS」という“不都合な真実”にありました。さあ、ファンの「印象」と専門家の「記録」の間に横たわる深い溝を、一緒に覗いてみましょう。

結論:ファンの“記憶”は、たった一つの“記録”に敗れた

なぜ、山本は候補にすら入れなかったのか? 答えは、あまりにもシンプルで、そして残酷なものでした。あなたの、そして私の記憶に焼き付いたあの神業プレーも、MLBが絶対視する守備指標「DRS(Defensive Runs Saved)」の前では、無力だったのです。

そう。今のメジャーリーグの賞レースは、シーズンを通して積み上げられた膨大なデータによって、驚くほどドライに勝者が決まります。

これが現実です。今季ナ・リーグ投手部門のDRSを見てみましょう。

  • ローガン・ウェブ(ジャイアンツ):+7(リーグ1位)
  • マシュー・ボイド(カブス):+6(リーグ2位タイ)
  • デビッド・ピーターソン(メッツ):+6(リーグ2位タイ)
  • 山本由伸(ドジャース):+3(リーグ6位)

山本の+3という数字は、リーグ6位。これは十分に誇れる成績です。しかし、最終候補に選ばれた3人は、全員が+6以上。ここには、ファンの想いでは覆せない“データ上の明確な差”が存在したのです。これが、山本由伸のゴールデングラブ賞への道を阻んだ、たった一つの、しかし決定的な理由でした。

【5分で理解】ゴールドグラブ賞の“絶対神”?守備指標『DRS』の正体

「で、そのDRSって一体何なんだ?」そう思った方も多いでしょう。大丈夫。ここから、野球ファンなら誰もが知っておくべきこの“魔法の数字”の正体を、誰にでも分かるように解説します。

DRSとは、守備の“貯金”である

DRS(Defensive Runs Saved)とは、その名の通り「守備によって、どれだけチームの失点を防いだか」を数値化したもの。これは、いわばあなたの“守備貯金”です。

  • DRSがプラス (+):平均的な選手よりたくさん失点を防いだ! (守備の達人)
  • DRSがゼロ (0):平均レベルの守備。
  • DRSがマイナス (-):平均的な選手なら防げたはずの失点を許してしまった… (守備に課題アリ)

この数字、単なるエラーの数で決まるわけではありません。打球の速さ、方向、選手の守備位置といった無数のデータを解析し、「この打球をアウトにできる確率」を割り出します。難しい打球をアウトにすれば貯金(DRS)が増え、簡単な打球をミスすれば減る。非常にシビアな評価システムなのです。

なぜ“印象”はデータの前で無力なのか?

ではなぜ、こんな小難しいデータがゴールドグラブ賞の選考で幅を利かせているのでしょうか?答えは、それが「主観」を完全に排除できるからです。

実際に、MLB公式サイトが伝える選考方法によれば、全30球団の監督とコーチによる投票が75%。そして、残りの25%を占めるのが、何を隠そうDRSなどを基に算出される「SABR守備指数(SDI)」なのです。

つまり、どれだけあなたの記憶に残るスーパープレーをしても、シーズンを通してコツコツとDRSを稼いでいなければ、栄冠には届かない。それが今のMLBの現実なのです。

守備率1.000なのに…なぜ山本のDRSは伸び悩んだのか?3つの死角

ここで、新たな疑問が湧いてきます。山本由伸は今シーズン、エラーゼロ。守備率は完璧な1.000を記録しています(Baseball-Reference参照)。それなのになぜ、DRSは最終候補の半分しかなかったのか?その理由を探ると、3つの“死角”が見えてきます。

死角①:少なすぎた“アピールの場”

2024年シーズン、山本は怪我での離脱もあり、登板は18試合、90.0イニングに留まりました。DRSはプレーの積み重ねで増えていく“貯金”です。そもそもマウンドに立つ時間が短ければ、守備でチームを救う機会、つまりDRSを稼ぐチャンスそのものが少なかったのです。

死角②:“打たせない”という皮肉なジレンマ

私が注目するのは、彼の圧倒的なピッチングスタイルそのものです。山本は、三振の山を築く本格派(90イニングで105奪三振)。バットに当てさせないことが彼の真骨頂ですが、これが皮肉にも守備機会を減らす一因となりました。対照的に、候補者のローガン・ウェブはゴロを打たせて取る投手。当然、ウェブの方が打球処理の機会は多く、DRSを積み上げやすかったというわけです。

死角③:データが求める“超人”プレーの壁

DRSで高い評価を得るには、エラーをしない「堅実さ」だけでは足りません。平均的な投手なら絶対に追いつけないような打球をアウトにする“超人的なプレー”が求められます。山本は確かに堅実でしたが、データ上「平均以上の高難度プレー」と判定された回数が、ウェブ(DRS+7)ら“DRSモンスター”たちに及ばなかったのかもしれません。

彼の守備が劣っていたわけではない。ただ、データという物差しの上では、さらに上の数字を叩き出した選手がいただけなのです。

データは本当に正しいのか?見過ごされた“プレーの価値”

今回の山本由伸の落選は、私たちに一つの根源的な問いを突きつけます。「野球の評価は、データ(記録)が全てなのか?」と。

「記録」が殺す、「記憶」に残るファインプレー

DRSに代表されるセイバーメトリクスが、野球の評価に革命を起こしたことは間違いありません。しかし、その光が強ければ強いほど、影もまた濃くなります。数値化できないプレーの価値が、置き去りにされているのではないか?

ワールドシリーズでの山本のあのバント処理が、チームにどれほどの勇気を与え、相手にどれほどの絶望感を与えたか。その価値は、DRSの数字に換算できるものではありません。「記録に残らないファインプレー」という言葉は、データ至上主義の現代において、その輝きを失いつつあるのかもしれません。

“美しさ”の日本 vs “範囲”のアメリカ。すれ違う名手の定義

この問題の根底には、日米で「守備の名手」の定義が根本的に異なるという、文化的な違いも横たわっています。

  • 日本の“名手”観:私たちは、捕球から送球までの一連の流れが水のように滑らかな「美しさ」「堅実さ」を何より重んじます。山本が日本でゴールデン・グラブ賞を3度も獲得できたのは、彼のプレーがこの“日本の美学”を体現していたからです。
  • アメリカの“名手”観:一方、MLBでは、多少フォームが荒削りでも、圧倒的な身体能力でとんでもない範囲をカバーする「レンジの広さ」が称賛されます。DRSという指標は、まさしくこのアメリカ的価値観の申し子。どれだけ多くのアウトをもぎ取ったかが、評価のすべてなのです。

私たちが山本由伸の守備に心を奪われるのは、彼のプレーの中に、日本人が愛する「名手の様式美」を見ているからではないでしょうか。データが示す客観的な事実と、ファンの心に刻まれた鮮烈な記憶。今回の騒動は、その間に横たわる、決して埋まらない溝を浮き彫りにしたのです。

“印象”を“記録”で黙らせろ。山本由伸、逆襲のシーズンはこれからだ

ここまで、山本由伸がなぜゴールドグラブ賞に選ばれなかったのか、その理由を解き明かしてきました。しかし、誤解しないでほしいのです。これは決して、彼の守備力が否定されたわけではありません。MLB1年目、怪我による離脱。そんな特殊な状況下で、データという一つの物差しで測った時に、彼を上回る選手がいただけ。ただ、それだけの話なのです。

むしろ、ワールドシリーズで見せたあの完璧なプレーは、データだけでは測れない彼の価値を、全米のファンと関係者の脳裏に焼き付けたはずです。

来シーズン、山本由伸が一年間フルでローテーションを守り抜いた時、何が起こるでしょうか?守備機会は増え、DRSの数値は自ずと向上するでしょう。そして、多くの人が抱く「山本は守備の名手だ」という“印象”が、誰も文句のつけようがない“記録”によって証明されるはずです。

ファンの記憶に残る神技と、専門家を黙らせる絶対的なデータ。その両方を手に入れた時、山本由伸は真の意味でメジャーリーグ最高の投手となる。来シーズン、彼がゴールデングラブ賞のトロフィーを掲げる姿を、私たちは固唾をのんで見守ることになるでしょう。

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