SNSを彩る、息をのむほど美しい雪化粧の富士山。「いつか自分もあの絶景を…」そんな憧れを抱いている方も多いのではないでしょうか。
しかし、先日報じられた「冬季閉山中の富士山で救助要請相次ぐ」というニュース[1]を見て、ドキッとした人もいるはずです。
「冬の富士山って登れるの?」「夏に登った経験があれば大丈夫?」「もし遭難したらどうなるの?」
その憧れの裏側にある漠然とした不安や疑問。この記事では、夏山経験者や登山初心者の方に向けて、そのすべてにお答えします。
この記事を読み終える頃には、冬の富士山の本当の姿を理解し、「なるほど、自分はこうすればいいのか」と、次に取るべき安全で賢明な行動がハッキリと分かっているはずです。
【ルール】そもそも冬の富士山は「登山禁止」。夏とは全くの別世界です
まず、最も重要な結論からお伝えします。冬の富士山は、山梨・静岡両県が定めるルールにより、登山道が「冬季閉鎖(閉山)」されています[3]。これは「登山道は使えませんよ」という明確な意思表示です。
ニュースでも報じられているように、閉鎖された柵をすり抜けて立ち入る行為は、極めて危険なだけでなく、条例違反で罰則を科される可能性もあります[2]。
SNSの投稿には「たとえ夏に富士山登頂の経験があってもダメだ。全く別の山だからです」という悲痛な声がありました[1]。まさにその通り。夏の賑やかな富士山を知っている人ほど、その豹変ぶりに驚くことになります。あなたの知っている富士山は、そこにはありません。
【危険性】なぜ危険?冬の富士山が「氷の要塞」と化す3つの理由
「全く別の山」と言われても、ピンとこないかもしれません。ここでは、死に直結する具体的な危険性を3つご紹介します。
理由①:体感温度-30℃以下。家庭用冷凍庫を遥かに超える極寒
冬の富士山山頂付近は、気温が-20℃を下回り、風速30m/s以上の猛烈な風が吹き荒れることも珍しくありません。これは、大型台風の中心付近と同じくらいの風速です。
風速1m/sで体感温度は1℃下がると言われていますから、あっという間に体感温度は-30℃〜-50℃に。これは家庭用冷凍庫(約-18℃)を遥かに超える、生命の危機に瀕する極寒の世界です。
理由②:足元は「ガチガチの氷」。一歩が命取りのスケートリンク
ニュースで救助に向かった静岡県警の隊員は、現場の状況を「足元はガチガチに凍った状態」と証言しています[6]。雪が強風で叩きつけられ、氷のように硬く締まった斜面(アイスバーン)がどこまでも続きます。
SNSの投稿にも「一度滑り落ちたらもう終わりです。これはとても怖いです」とあるように[1]、一度バランスを崩せば、数百メートルも止まることなく滑落し、命を落とす危険が常にあります。
夏の装備と冬の装備がどれだけ違うか、下の表を見てください。スニーカーや軽登山靴で立ち入ることが、いかに無謀か一目瞭然です。
| 夏の富士山 | 冬の富士山 | |
|---|---|---|
| 靴 | トレッキングシューズ | 保温材入り冬山用登山靴(アイゼン装着可) |
| 滑り止め | (基本不要) | 12本爪以上のアイゼン(必須) |
| 杖/道具 | トレッキングポール | ピッケル(滑落停止に必須) |
| 服装 | 速乾性Tシャツ、フリース、レインウェア | 厳冬期用レイヤリング一式(高性能なもの) |
| その他 | ヘッドライト、水、食料 | ビーコン、プローブ、ショベル、ゴーグル、バラクラバ等 |
理由③:道も山小屋もない。完全な孤立無援状態
夏山シーズン中は多くの登山者で賑わい、山小屋や救護所、トイレも利用できます。しかし、冬はそれら全てが閉鎖され、登山道さえ雪と氷に埋もれて消えてしまいます。頼れるものは何もありません。
今回の遭難救助では、通報から救助完了まで延べ11人態勢でまる1日を要しました[6]。何かあっても、すぐに助けは来ないのです。暗闇と氷の世界で、たった一人で救助を待つ恐怖を想像してみてください。
【費用】もし遭難したら?救助費用は自己負担?知っておくべき「お金」の話
「万が一の時は救助隊が助けてくれる」と安易に考えていませんか?その救助には、多大なコストとリスクが伴います。
警察や消防による救助活動の費用は、原則として公費(税金)で賄われます。しかし、ニュースでも「自治体から救助費用の有料化を求める声が上がる」[6]と報じられている通り、この状況は当たり前ではありません。安易な登山者のために、私たちの税金が使われ、救助隊員が命の危険に晒されているのです。
さらに、状況によっては民間の救助隊が出動することもあります。その場合、費用は全額自己負担となり、捜索・救助費用は数十万〜数百万円にのぼるケースも少なくありません。
だからこそ、登山をするなら「山岳保険」への加入は必須のマナーです。山岳保険は、こうした高額な救助費用をカバーしてくれるだけでなく、賠償責任や入院・通院費用なども補償してくれます。年間数千円の保険料を惜しんだばかりに、人生を棒に振るような事態は絶対に避けなければなりません。
【装備・技術】それでも冬山に登るには、何が必要?
今回の遭難者は、登山道が閉鎖されていることを知りながら、「登山計画書を提出せず」に入山していました[6]。これは冬山登山以前の、登山の基本ルールを無視した行為です。
「正しい冬山登山」は、夏の登山の延長線上にはありません。以下の装備と技術を、すべて完璧に使いこなせるだけの訓練が必要です。
- 専門的な装備:前述の表にある冬山用登山靴、アイゼン、ピッケルはもちろん、雪崩に埋まった仲間を探すためのビーコン・プローブ・ショベル(通称:三種の神器)など。
- 専門的な技術:ピッケルを使って滑落を止める「滑落停止技術」、強風に耐える「耐風姿勢」、アイゼンを効かせて歩く「アイゼンワーク」、地図とコンパスで現在地を把握する「ナビゲーション技術」など。
これらは独学で身につけられるものではなく、経験豊富な指導者のもとで、何度も訓練を重ねて初めて習得できるものです。「自分は大丈夫」という根拠のない自信が、最も危険なのです。
【代替案】登らなくても絶景は楽しめる!冬の富士山を安全に満喫する3つの方法
ここまで読んで、「冬の富士山登頂は今の自分には無理だ」と理解していただけたと思います。しかし、ガッカリする必要はありません。冬の富士山の美しさを安全に楽しむ方法は、たくさんあります。
方法①:麓の絶景スポットから撮影する
富士山の本当の美しさは、少し離れた場所からこそ堪能できます。特に空気が澄んだ冬は、麓からでも息をのむような絶景が広がっています。
- 河口湖畔:湖面に映る「逆さ富士」はあまりにも有名。特に北岸エリアは定番の撮影スポットです。
- 山中湖パノラマ台:眼下に山中湖、その向こうに雄大な富士山を望むことができます。夕暮れ時には感動的な景色が広がります。
- 新倉山浅間公園:五重塔(忠霊塔)と富士山を一枚の写真に収められる、海外からも人気のスポットです。
方法②:冬でも行ける!富士山が見える低山ハイキングに挑戦
本格的な冬山は無理でも、雪が少ない低山から富士山を眺めるハイキングはいかがでしょうか。箱根の金時山や、富士五湖エリアの三ツ峠山などは、冬でも比較的安全に登れ、山頂からは素晴らしい富士山の姿を望めます。(※天候や積雪状況は必ず事前に確認し、軽アイゼンなどの装備は携行してください)
方法③:プロと一緒なら安心!スノーシュー体験ツアーに参加する
「やっぱり雪の上を歩いてみたい!」という方には、ガイド付きのスノーシュー体験ツアーがおすすめです。富士山エリアや、近隣の八ヶ岳、蓼科などでは、初心者向けのツアーが数多く開催されています。
フカフカの雪の上を歩く楽しさは格別です。まずはこうしたツアーで雪山の基礎を学び、安全に楽しむ経験を積むことが、いつか本格的な雪山に挑戦するための、着実で正しい第一歩となります。
冬の富士山の美しい姿への憧れは、決して悪いものではありません。しかし、その憧れを無謀な挑戦に変えてはいけません。
正しい知識を身につけ、自分のレベルを客観的に判断し、ルールとマナーを守る。それこそが、長く安全に登山を楽しむための唯一の方法です。
あなたのその一歩が、悲劇の始まりではなく、素晴らしい絶景との出会いになることを心から願っています。
参考文献
- [1] 冬季閉山中の富士山で救助要請相次ぐ 中国のSNSには柵 … – YouTube
- [2] 「富士山なめるな」封鎖を“強行突破”した中国籍の男性がまた遭難 …
- [3] 開山期以外の富士山|安全・リスク情報 – 富士登山オフィシャルサイト
- [4] 冬季閉山中の富士山で救助要請相次ぐ 中国のSNSには柵すり抜け …
- [5] 冬季閉山中の富士山で救助要請相次ぐ 中国のSNSには柵すり抜け …
- [6] 冬季閉山中の富士山で救助要請相次ぐ 中国のSNSには柵すり抜け …
- [7] 冬季閉山中の富士山で救助要請相次ぐ 中国の SNSには柵すり抜け …
- [8] 富士山の冬登山はできる? 安全に富士登山を楽しむためには
- [9] 【冬富士登山 厳冬期】生死の境界線 元旦に冬富士山頂を目指す人


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