自公連立、早くも危機?高市新総裁に公明党が異例の懸念表明

厳しい表情を浮かべる自民党・高市早苗新総裁と公明党・山口那津男代表。今後の自公連立の行方が懸念される一場面。 政治
自民党新総裁に就任した高市氏(左)と懸念を表明した公明党の山口代表(右)。

この記事のポイント

  • 高市早苗新総裁の誕生直後、長年の相棒・公明党が異例の「懸念」を表明。自公連立に「終わりの始まり」の足音が聞こえ始めています。
  • なぜ公明党は祝賀ムードに水を差したのか?その裏には、支持母体、政権内での主導権、そして”新しい恋人”維新の会をめぐる、したたかな3つの政治的計算がありました。
  • 両党の対立は根深く、国家の形を問う「靖国」と、個人の尊厳を問う「外国人政策」をめぐる、決して交わることのない「思想」の違いが横たわっています。
  • 当面は「仮面夫婦」としての連立維持が濃厚ですが、高市氏の一手次第では対立が激化し、政権崩壊のリスクも現実味を帯びてきます。

相棒からの宣戦布告? 祝賀ムードを凍らせた公明党の「異例の懸念」

高市早苗、新総裁誕生――。このニュースに、あなたはどんな未来を思い描いたでしょうか? 日本初の女性首相誕生への期待か、それともタカ派とされる政治姿勢への不安か。しかし、誰よりも早く、そして公然と「不安」を突きつけたのは、長年の“相棒”であるはずの公明党でした。

2025年10月4日、自民党本部が祝賀ムードに包まれる中、その熱狂が冷めやらぬうちに事件は起こります。挨拶に訪れた高市新総裁に対し、公明党の斉藤鉄夫代表が突きつけたのは、祝福の花束ではなく、「政治とカネ」「靖国」「外国人政策」という三本の鋭い釘だったのです。日テレNEWS NNN「異例」と報じたこの動き。斉藤代表は記者団に「今の段階では何とも申し上げることができない」と、連立の未来をあえて白紙に戻すかのような言葉を残しました。

なぜ彼らは、最高の門出の日に、あえて泥を塗るような真似をしたのか? この祝賀ムードを凍りつかせた一言の裏にこそ、今後の日本政治を占う、深く、したたかな「理由」が隠されているのです。さあ、その裏側を一緒に覗いてみましょう。

高市新総裁に突きつけられた、3つの「踏み絵」

公明党が突きつけた3つの懸念。それは、言葉を変えれば、高市氏が連立パートナーとして信頼できるかどうかを試す、重い重い「踏み絵」に他なりません。あなたは、この問いにどう答えますか?

踏み絵その1:「裏金問題、本当にケジメつけられますか?」

もはや説明不要の、自民党を蝕む政治資金パーティー裏金問題。先の選挙で国民から厳しい審判を下された最大の要因です。「きちんとけじめをつける」ことを求める公明党の要求は、クリーンさを党是とする彼らにとっては当然の叫びでしょう。高市氏が会見で「適材適所」と、裏金問題に関与した議員の登用を完全には否定しなかったことに対し、「本当に浄化する気があるのか?」と、公明党は鋭い視線を送っているのです。

踏み絵その2:「あなたの言う“個人の祈り”、本当に外交問題になりませんか?」

これこそが、自公の間に横たわる最も深く、暗い亀裂です。高市氏の考えは明快です。総裁選後の会見でも、彼女はこう断言しました。「どのように慰霊をするのか、平和をお祈りするのかは適時適切に判断をさせていただく。絶対にこれは外交問題にされるべきことではない」と。

靖国神社は戦没者慰霊の中心的な施設で、平和のお社(やしろ)だ。どのように慰霊をするのか、平和をお祈りするのかは適時適切に判断をさせていただく。絶対にこれは外交問題にされるべきことではない

【詳報】高市早苗・新総裁が会見 裏金関与議員の登用「適材適所で」 – 朝日新聞デジタル

しかし、その言葉に公明党の斉藤代表は即座に噛みつきました。「現実に外交問題に発展している」。まるで「理想論ではなく、現実を見てください」とでも言いたげに。平和主義を掲げ、中国や韓国との関係を重視する公明党にとって、A級戦犯が眠る靖国への首相参拝は、絶対に越えてはならない一線。この問題は、いつ爆発してもおかしくない自公連立最大のアキレス腱なのです。

踏み絵その3:「あなたの言う“共生”は、私たちの目指すものとは違う」

外国人との共生というテーマでも、両者の立ち位置は大きく異なります。斉藤代表が「外国人を共生・包摂し、一緒に社会を築いていくことは日本とっても必須だ」と、開かれた社会を訴えるのに対し、高市氏は、より国益や治安維持の観点を重視する姿勢を隠しません。毎日新聞が報じてきたように、彼女の過去の発言は、時に「排外主義的」との批判も浴びてきました。人権擁護を掲げる公明党から見れば、その一挙手一投足が監視の対象となるのは当然のことでしょう。

【深掘り分析】なぜ今?公明党が「祝賀ムード」を壊してまで伝えたかった3つの本音

それにしても、なぜこのタイミングだったのでしょうか。政権発足というおめでたいムードの中、わざわざ厳しい言葉を投げかけた背景には、彼らのしたたかな政治的計算が透けて見えます。

本音① 支持母体への言い訳:「私たちは、まだ屈していない」

忘れてはならないのが、公明党の巨大な支持母体、創価学会の存在です。「平和・文化・教育」を掲げる彼らにとって、高市氏のタカ派的な言動、特に靖国参拝へのこだわりは、到底受け入れられるものではありません。ここに、自公連立が長年抱え込んできた、まるで時限爆弾のような「構造的矛盾」が顔を出します。

高市氏が自身の支持基盤である保守層の期待に応えようとすればするほど、公明党は創価学会の支持者たちに顔向けができなくなるのです。今回の素早い懸念表明は、何よりもまず「我々は新総裁の考えに安易に同調しないぞ」という強いメッセージを内に向け、党のアイデンティティを再確認する、極めて重要なパフォーマンスだったのです。

本音② したたかな主導権争い:「あなたの政権、私たちがいないと動きませんよ」

もちろん、これは単なる理念の表明ではありません。極めて高度な政治的駆け引き、新政権における主導権争いのゴングです。考えてみてください。今の自民党は、衆参ともに単独過半数を失っています。つまり、政権を動かすための「鍵」は、公明党が握っているのです。

この絶対的な優位性を最大限に利用し、新政権が船出するまさにその瞬間に、最も譲れない要求を突きつける。これは、今後のあらゆる政策決定において「我々の声を聞かざるを得ない状況」を作り出すための、見事な先制攻撃と言えるでしょう。読売新聞も報じるように、新代表になったばかりの斉藤氏にとっても、自民党に毅然とモノ申す姿は、党の存在感をアピールする絶好の機会だったに違いありません。

本音③ 新しい恋人への嫉妬?:「維新と組むなら、別れます」

そしてもう一つ、見逃せないのが日本維新の会という「第三の男」の存在です。報道によれば、高市政権は国会運営を安定させるため、維新との連立、いわゆる「自公維」連立を視野に入れていると囁かれています。これが公明党にとっては面白くない。

大阪を主戦場に、議席を激しく奪い合ってきた維新は、いわば不倶戴天のライバルです。そんな相手が連立に加われば、自分たちの影響力が薄まるのは火を見るより明らか。今回の懸念表明は、「私たちを無視して維新に色目を使うなら、この連立、どうなるか分かりませんよ」という、自民党に対する強烈な牽制球でもあるのです。これはもう、政治の世界の三角関係と言ってもいいかもしれません。

なぜ彼らは分かり合えないのか?水と油、「国家観」「人権観」の絶望的な断絶

今回噴出した問題は、昨日今日に始まった話ではありません。それは自公連立が生まれた時からずっと燻り続けてきた火種。なぜなら、その根っこには、両党が決して乗り越えられない、根本的な思想の違いがあるからです。

靖国で衝突する「国家」の形――“国内問題”か“国際問題”か

自民党の保守派にとって、靖国神社は「国のために命を捧げた英雄」を祀る神聖な場所。高市氏が「外交問題にされるべきでない」と強く主張するのは、「国の慰霊のあり方は、その国自身が決めるべきだ」という、国家の主体性を何よりも重んじる「国家観」の表れです。

一方、公明党が依って立つのは、徹底した平和主義と国際協調です。彼らにとって、A級戦犯が合祀された靖国への首相参拝は、近隣諸国との軋轢を生むだけの愚かな行為。それは、ロイターが伝える専門家の見方のように、現実的な外交リスクを直視した考え方でもあります。これはもう、政策の是非ではなく、この国がどうあるべきかという「国家観」そのものの衝突なのです。

外国人で浮き彫りになる「人権」の温度差――“包摂”か“管理”か

外国人政策での対立は、両者の「人権観」の温度差を浮き彫りにします。公明党は、仏法の「生命の尊厳」をバックボーンに、国籍を問わず一人ひとりの人権を尊重する「共生・包摂」社会を理想とします。それは、社会の弱い立場の人々に寄り添うという、結党以来のDNAです。

対して、高市氏に代表される保守派の思考の出発点は、まず「国益」。外国人をどう受け入れるかという議論も、社会秩序や安全保障、経済的メリットといったフィルターを通して行われがちです。もちろん、彼女もインタビュー「分断より共生」と語るように、その必要性を否定はしません。しかし、そのアプローチや力点の置き方が、公明党とは根本的に違う。この差が、埋めがたい溝となって政策の対立を生み出すのです。

で、結局どうなる?自公連立「崩壊」のXデーと3つの未来予測

さて、ここまで見てきたように、両者の亀裂は深刻です。では、この長すぎた二人三脚は、ついに終わりを迎えるのでしょうか。最後に、考えられる3つの未来を提示し、この記事を締めくくりたいと思います。

未来予測①:仮面夫婦の継続(可能性:高)

最もあり得る未来からお話ししましょう。身も蓋もない言い方をすれば、「仮面夫婦」の継続です。政治は理念だけでは動きません。選挙協力や与党としての権力など、連立を維持するメリットは双方にとってあまりに大きい。高市氏も首相の座に就けば、総裁選で見せた顔とは別の、「現実的な調整役」としての顔を見せるでしょう。靖国参拝は当面見送るか、玉虫色の決着を図る。公明党もその「配慮」を汲み取り、決定的な対立は避ける。水面下では激しい綱引きが続きながらも、私たちの前では手を取り合う…そんな日々が続く可能性が最も高いでしょう。

未来予測②:終わらない冷戦状態へ(可能性:中)

もし、高市氏が支持基盤の期待に応えるべく、あるいは支持率浮揚のカンフル剤として、公明党の反対を押し切って靖国参拝などの強硬策に打って出たら?その瞬間、連立関係は「冷戦」に突入します。公明党は閣僚引き上げこそしないものの、国会での協力を拒否するなど、じわじわと政権の体力を奪っていくでしょう。重要法案は停滞し、高市政権は常に「連立離脱」という時限爆弾を抱えながらの政権運営を強いられます。読売新聞が指摘するように、盤石とは言えない党内基盤でスタートした高市政権にとって、この不協和音は命取りになりかねません。

未来予測③:そして、離婚へ…(可能性:低)

現時点では考えにくいですが、可能性はゼロではありません。何らかの政治スキャンダルや選挙での歴史的大敗をきっかけに、両党の信頼関係が完全に壊れた時、「連立解消」という最終カードが切られます。その時、自民党は単独過半数を持たない少数与党として、極めて困難な漂流を始めることになるでしょう。維新や国民民主党を巻き込んだ、政界再編という大嵐が吹き荒れるかもしれません。日本の政治は、一気に先行き不透明な時代へと突入します。

高市新総裁の誕生。それは、日本政治の新たな章の始まりであると同時に、長年続いた「自公連立」という安定の枠組みが、その根底から揺さぶられる時代の幕開けなのかもしれません。彼女が、公明党から突きつけられた数々の「踏み絵」にどう応えるのか。その一つひとつの決断が、この国の未来を大きく左右することになるのです。

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