この記事で、あなたに伝えたいこと
- 「楽園」宮古島に忍び寄る巨大ザメの影。なぜ今、漁業や観光を揺るがすほど深刻な事態になっているのか、その最前線に迫ります。
- 犯人はサメか、それとも私たち人間か?その背景には、地球温暖化という、見て見ぬふりはできない「不都合な真実」がありました。
- ただ殺すだけでは何も解決しない。海外の成功例に学ぶ、サメを「厄介者」から「宝」へと変える逆転の発想とは?
- 美しい宮古島の海を守るために、他人事ではいられない。この記事を読み終えた瞬間から、あなたにもできることが、きっと見つかります。
導入:観光業など、経済に大打撃?宮古島にサメ増加
どこまでも続くエメラルドグリーンの海と、息をのむほど白い砂浜。あなたも一度は憧れたことがあるかもしれない、沖縄・宮古島の「楽園」の姿です。しかし、もしその楽園のすぐ足元に、巨大な影が忍び寄っているとしたら…?
その影の正体は、体長5メートルを超える巨大なイタチザメ。そう、映画『ジョーズ』がスクリーンに映し出した、あの恐怖の象徴です。しかし、これは映画の話ではありません。今まさに、島の漁業を、そして観光という生命線を蝕み始めている、紛れもない現実なのです。
テレビでは、巨大ザメとハンターの命がけの死闘がセンセーショナルに報じられました。それを見て「サメは怖い」「駆除すべきだ」と感じたかもしれません。ですが、少しだけ立ち止まって考えてみませんか? なぜ、彼らは突如として私たちの前に姿を現したのか。本当に、彼らだけが「悪者」なのでしょうか。
この記事では、宮古島で起きている現象を入り口に、その奥深くに横たわる地球規模の課題、そして「駆除」の先にある「共存」という未来の可能性を考え抜きます。
「魚が1匹も上がらない…」楽園の海で響く、漁師たちの悲鳴
「楽園」という言葉の裏で、日々サメの脅威と向き合い、生活を脅かされている人々がいます。彼らの声に、まずは耳を傾けてみましょう。
奪われる生活の糧。悲痛な叫び「サメは百害あって一利なし」
宮古島の漁師にとって、サメはもはや天敵です。一番の問題は、狙った魚を釣り上げる寸前、海中から現れたサメに横取りされてしまう「横取り被害」。これが年々深刻化し、彼らの生活を根底から揺るがしています。
ある漁師の言葉には、やり場のない怒りと フラストレーションが滲みます。
この近海はサメの被害で、ひどい時は(魚が)1匹も上がってこない。漁師の島に、サメは百害あっても一利もない
生活の糧を、目の前でいとも簡単に奪われる。その絶望は、島から遠く離れた私たちには想像もつかないほど深いものなのです。
たった一人の事故で島が終わる。命を賭ける70歳の“シャークハンター”
サメ問題は、島の経済を支える観光業にも、不気味な影を落としています。もし、たった一件でも、観光客が襲われる事故が起きてしまったら…?その瞬間に、「楽園」のイメージは崩れ落ち、島の経済は計り知れない打撃を受けるでしょう。
その最悪のシナリオを阻止するため、たった一人で巨大ザメに立ち向かい続ける男がいます。御年70歳、40年以上にわたりサメを追い続ける漁師・砂川博一さん。彼は、愛する島の海と人々を守るため、今日も命を賭けています。
テレビカメラが捉えたのは、砂川さんが仲間と共に体長5メートル超のイタチザメと繰り広げた、1時間に及ぶ死闘でした。へし折れんばかりにしなるモリが、その壮絶さを物語っています。港に引き揚げられた巨体を目の当たりにした観光客は、思わずこう漏らしました。「これが海にいると思うと、泳ぐのが怖くなります」。
なぜ、彼はここまでして戦うのか。その言葉には、島を背負う者の悲壮な覚悟が宿っていました。
(観光客が襲われたら)宮古の経済、3割くらいは落ちる。若い人がよく来ているから。(観光客が)来なくなる。(サメを)捕らないと、観光客1人でも(襲われたら)怖いから
これは、ヒーローの物語ではありません。愛する故郷を守るために、戦う以外の選択肢を持てない一人の男の、切実な戦いの記録なのです。
犯人は本当にサメなのか?急増の裏に隠された3つの「不都合な真実」
さて、ここからが本題です。なぜ、宮古島の海でこれほどまでにサメが増え、私たちの生活圏にまで近づいてきているのでしょうか。サメを一方的な「侵略者」と断じる前に、その引き金を引いたのが、私たち人間自身かもしれないという「不都合な真実」と向き合わなければなりません。
真実①:温暖化という名の追放宣告。住処を失った海の覇者
最大の容疑者は、もはや誰も無視できない地球規模の問題、地球温暖化による海水温の上昇です。海の環境がジワジワと変わり、サメたちが本来の住処を追われているとしたら…?東海大学の堀江琢准教授も、その可能性を指摘しています。
地球温暖化などで魚種が今までいた生息域とちょっと変わっている。そういった影響もあるのかもしれない
エサとなる魚の群れが、水温の変化で移動する。それを追って、海の覇者であるサメもまた、新たな狩場を求めて彷徨うことになる。その果てにたどり着いたのが、宮古島の沿岸だったのかもしれません。実際、かつては珍しかったイタチザメが、今や本州の駿河湾でも目撃されているのです。これは、宮古島だけで起きている特殊な事件ではない、という何よりの証拠です。
真実②:私たちが魚を食べ尽くしたから?崩壊する海のピラミッド
次に考えたいのが、海の中の勢力図、つまり生態系のバランスです。私たち人間の飽くなき食欲が、海のピラミッドを静かに、しかし確実に崩しているとしたらどうでしょう。
例えば、マグロやカジキ。彼らはサメにとって、エサを奪い合う強力なライバルです。しかし、私たちが寿司や刺身として大量に消費した結果、その数は激減しました。ライバルが消えた海で、サメが勢力を拡大するのは、ある意味で自然の摂理かもしれません。また、沿岸開発や汚染によって小魚たちが本来の住処を追われ、漁港やビーチの近くに集まれば、それを狙うサメが寄ってくるのも当然のこと。私たちが海の秩序を乱したツケが、今まさに回ってきているのです。
真実③:無意識の「餌付け」。サメを呼び寄せているのは、あなたかもしれない
そして、最も皮肉で、私たち一人ひとりに突き刺さるのがこの真実です。サメの驚異的な嗅覚を、私たちの無意識な行動が刺激しているとしたら…?
考えてみてください。釣り船から捨てられる魚のアラや血の匂い。ビーチでバーベキューをした後、海に流れていく食べ物の残りカス。これらはすべて、沖合にいるはずのサメにとって「ご馳走のサイン」になり得ます。意図せずとも、私たち自身がサメを危険な沿岸部へと「餌付け」してしまっている。この恐ろしい可能性から、目を背けることはできません。
こうして見ていくと、サメは単なる「加害者」でしょうか?むしろ、私たち人間が引き起こした地球規模の変化に翻弄される「被害者」という側面が見えてきませんか。
殺すしか道はないのか?海外の成功例に学ぶ「共存」という未来
目の前の脅威を取り除くため、駆除という選択は短期的に必要かもしれません。砂川さんの覚悟を、誰が否定できるでしょう。しかし、問い続けなければなりません。殺し続けることだけが、本当に唯一の答えなのか、と。
「海の掃除屋」を消し去る代償
「海のギャング」というイメージとは裏腹に、サメは生態系において「海の掃除屋」という極めて重要な役割を担っています。弱った魚や死骸を食べることで、海の伝染病を防ぎ、生態系全体の健康を保っているのです。沖縄の海は、世界的に見てもサメにとって重要な生息地である、と専門家は語ります。
そんな彼らをむやみに駆除し続ければ、海のバランスは崩れ、いずれ予測不能な形で私たちに跳ね返ってくるでしょう。「駆除か、保護か」という単純な二元論では、もはやこの問題は解決できないのです。
厄介者が「お宝」に変わる日。シャークツーリズムという逆転の発想
ここで、海外に目を向けてみましょう。そこには、私たちの凝り固まった常識を覆す、驚くべきヒントが隠されていました。
- 失敗の歴史:オーストラリアのシャークネット
ビーチを守るために設置された巨大な網は、サメだけでなく、ウミガメやイルカ、クジラまでをも犠牲にし、「死のカーテン」と批判されています。 - 成功の未来:パラオやバハマの「シャークツーリズム」
対照的に、パラオやバハマでは、サメを「守るべき資源」と位置づけ、ダイバーがサメを観察するツアーが大人気に。ここではサメは「厄介者」ではなく、観光客を呼び込む最高の「お宝」なのです。一説には、生きたサメ一匹が生涯で地域にもたらす経済効果は、数億円にものぼると言います。
実は、宮古島でも新たな挑戦が始まっています。駆除したサメを無駄にせず、学びの教材やアクセサリーへと生まれ変わらせる「みゃ〜くSHARKプロジェクト」。これは、恐怖の対象だったサメを、学びや経済の対象へと転換する、希望に満ちた一歩です。恐怖ではなく、正しい知識で向き合う。そんな「賢い付き合い方」こそ、私たちが目指すべき道なのかもしれません。
結論:この物語の結末を決めるのは、あなただ
宮古島の巨大ザメ問題。その根っこを辿っていくと、私たち人間社会が引き起こした環境問題という、巨大な鏡に行き着きます。この物語の真の「悪役」は、5メートルのイタチザメではありません。もしかしたら、その鏡に映る私たち自身の姿なのかもしれないのです。
では、この複雑で壮大な物語の登場人物である私たちに、一体何ができるというのでしょうか。
ステップ1:ジョーズの呪いを解く
まず、あなたにお願いしたいのは、サメへの一方的な恐怖心を捨てること。映画が植え付けた「人食いザメ」のイメージから自由になりましょう。イタチザメが危険な種であることは事実ですが、彼らが積極的に人間を狙うことは極めて稀です。世界中でサメに襲われて亡くなる人の数は、雷や蜂による死者数より遥かに少ない。この事実を、まずは冷静に受け止めてください。
ステップ2:「賢い旅行者」になるということ
そして、もしあなたが宮古島を訪れるなら、どうか「賢い旅行者」であってください。あなたの行動一つひとつが、島の未来を左右する力を持っています。
- 安全な場所で、自然に敬意を払う:監視員のいるビーチを選び、遊泳禁止の看板は絶対に守る。それは、あなた自身の命と、島の未来を守るためのルールです。
- サメを挑発しない:海の生き物が活発になる早朝や夕暮れ時、視界の悪い海での遊泳は賢明ではありません。キラキラ光るアクセサリーは、サメの好奇心を刺激する可能性があります。少しだけ、海の生き物の気持ちになってみましょう。
- 来た時よりも美しく:ゴミは、海の生き物にとって凶器にもなれば、意図せぬ「餌」にもなります。ゴミは必ず持ち帰る。環境保全を掲げるツアーに参加する。その小さな選択が、宮古島の海を救う大きな一歩になるのです。
宮古島の美しい海は、誰か一人のヒーローが守れるものではありません。命がけでモリを握るハンターも、頭を抱える漁師も、そして、この楽園に癒しを求めて訪れるあなたも。すべての人が当事者として自然への敬意を取り戻すとき、初めて「共存」への道が拓ける。楽園の海が、100年後も楽園であり続けるための物語は、今、あなたのその手の中に委ねられているのです。
コメント