この記事でわかる「ヤバすぎる契約」の真相
- ムーキー・ベッツの562億円契約には、100億円もの「契約金」を引退後も15年かけて受け取るという、前代未聞の“裏オプション”が隠されています。
- なぜこんな面倒なことを?全てはMLBの「贅沢税」という名の“見えない敵”を出し抜き、毎年勝ち続けるためのドジャースの狡猾な財務戦略なのです。
- 大谷翔平の「年俸97%後払い」とは、似て非なるもの。後払いにしたモノ(ボーナスか給料か)、規模、そして契約に込めた「魂」が全く違います。
- ベッツと大谷。二つの異常な契約を武器に、ドジャースはMLBのルールブックの隙間を縫って「未来永劫の常勝軍団」を本気で作り上げようとしています。
ワールドシリーズ制覇の熱狂の裏で…なぜベッツの口座に「謎の8億円」が振り込まれたのか?
歓喜に沸くロサンゼルス。その熱狂の真っ只中で、チームの顔であるムーキー・ベッツの銀行口座に、約8億円(500万ドル)もの大金が静かに振り込まれました。Full-Countの報道が伝えるこの送金、もちろん優勝ボーナスなどではありません。では一体、この金の正体は何なのでしょうか?なぜ、シーズンが全て終わったこのタイミングで?
この「特別な給料日」の謎こそ、現代MLBの最先端を突き進むドジャースの錬金術、そして、あの歴史的な大谷翔平の契約の本質を理解するための、最高の入り口なのです。さあ、あなたも一緒に、ムーキー・ベッツの契約書に隠された秘密を暴き、大谷翔平の契約との“決定的”な違いを解き明かす旅に出ましょう。
562億円のカラクリ解剖!ベッツの契約書に隠された「15年払いの約束」
一見すると、ベッツの契約はよくある超大型契約に見えるかもしれません。しかし、その支払い方はまるでパズルのよう。まずは、今回の「謎の8億円」がどこから湧いて出たのか、その驚くべき仕組みを見ていきましょう。
一見シンプル、でも中身は超複雑な契約のキホン
話は2020年7月に遡ります。ベッツとドジャースが結んだのは、2021年から2032年までの12年間で総額3億6500万ドル(約562億円)というとてつもない契約でした。
この契約を構成するのは、大きく分けて2つのピースです。
- 基本年俸:12年間のプレーに対する給料。
- 契約金(サイニングボーナス):「ウチに来てくれてありがとう」の気持ちを込めた一時金。
普通、契約金といえば契約直後にドンッと一括で支払われるもの。しかし、ベッツの契約が“普通”でなかったのは、まさにこの契約金の支払い方だったのです。
なぜ43歳まで給料が続く?100億円「契約金」分割払いの衝撃
ベッツの契約書に記された契約金は、なんと総額6500万ドル(約100億円)。ドジャースとベッツは、この巨額ボーナスを、15年もの歳月をかけて分割で支払うことに合意しました。そう、ワールドシリーズ直後に振り込まれた8億円の正体は、この分割払いの1回分だったというわけです。
その支払いスケジュールを、少し覗いてみましょう。
- 2021年~2032年(現役バリバリの12年間):毎年11月1日に500万ドル(約7億7000万円)をゲット
- 2033年~2034年(引退してるかもしれない2年間):毎年11月1日に200万ドル(約3億800万円)をゲット
- 2035年(彼が43歳になる年):11月1日に100万ドル(約1億5400万円)をゲット
驚くべきことに、この支払いは彼の契約が切れる2032年を遥かに越え、彼が43歳になる2035年まで続きます。さらに言えば、Full-Countが報じた契約当時の詳細によれば、年俸の一部も後払いになるため、全ての支払いが終わるのは、彼が52歳になる2044年。これはもう、単なる雇用契約ではありません。事実上の「生涯パートナーシップ」なのです。
誰が得する?「後払い」という魔法の裏に隠された球団と選手の“不都合な”真実
一体なぜ、こんなにも複雑で、気の遠くなるような支払い方法を選んだのでしょうか?その答えは、球団と選手、それぞれが手にする「甘い果実」の中に隠されています。
ドジャースの狙いは一つ。「贅沢税」という名の“見えない敵”を出し抜くこと
球団側が喉から手が出るほど欲しかったメリット。それは、「贅沢税(Competitive Balance Tax)」という名の“見えない敵”からのプレッシャーを軽減することです。
贅沢税とは、金満球団が好き放題に選手を買い漁るのを防ぐためのペナルティ制度。決められたチーム総年俸の上限を超えると、重い税金が課せられます。スター軍団ドジャースにとって、この税金をどうコントロールするかは、まさに死活問題なのです。
ここでゲームのルールが面白くなります。贅沢税の計算で使われるのは、その年に実際に払ったキャッシュの額ではありません。契約総額を契約年数で割った「年平均価値(AAV)」という、いわば“見かけ上の年俸”が基準になるのです。
選手のサラリーは主にAAV(Average Annual Value)とその年の出来高、エスカレータ条項による増加額の和から算出されます。
AAVはおよそその選手の契約期間中の1年あたりの平均保証額を表し、一般的に 保証総額の現在価値÷保証年数 で求められます。
ベッツの100億円の契約金も、このルールに則って12年間に分割して計上され、分割計上のおかげで毎年の負担額を低く平らに見せることができるのです。これにより、ドジャースは帳簿上のチーム総年俸を巧みに操り、贅沢税をかわしながら、新たなスター選手を獲得するための資金を捻出するという“錬金術”を可能にしているのです。
ベッツはなぜ受け入れた?引退後も続く「金のなる木」という安心感
もちろん、この話は選手側にも大きなメリットがなければ成立しません。ベッツにとって最大の魅力は、引退後の人生まで見据えた、究極の収入安定です。アスリートの現役寿命は短い。しかし彼は、バットを置いた後も、43歳になるまでドジャースから安定した収入を得られるのです。これは、何物にも代えがたい安心感でしょう。
税金対策という、もう一つの“うまみ”も無視できません。現役時代は税率が鬼のように高いカリフォルニア州に住んでいても、引退後に税率の低い州へ引っ越せば、後払いで受け取る給料にかかる税金をガクンと減らせる可能性があるのです。これも、トップアスリートにとっては死活問題レベルの資産防衛術です。
この契約が結ばれた2020年当時、世界はコロナ禍の真っ只中でした。リーグ全体の経営がどうなるか誰にも分からない不安の中、直近の年俸を少し抑える代わりに、契約金の分割払いで未来の収入を確約するという形は、球団の短期的な負担を減らしつつ、選手を不測の事態から守る、まさにWin-Winの選択だったのです。
「後払い」は同じでも中身は別物!大谷翔平の契約が“異常”である本当の理由
「後払い契約」と聞いて、あなたの頭に真っ先に浮かんだのは、やはりチームメイト、大谷翔平の顔ではないでしょうか。しかし、この二つの契約を並べてみると、その仕組みと根底に流れる哲学が、全くの別物であることが見えてきます。
決定的な違い①:「ボーナス」を分割するベッツ、「給料本体」を未来に送る大谷
まず根本的に、後払いにしている“モノ”が違います。
- ムーキー・ベッツ:あくまで契約に付随する「契約金(ボーナス)」を長期分割で受け取るのがメイン。
- 大谷翔平:10年間の労働対価である「年俸(給料本体)」の97%を、契約が終わった未来に送る。
ベッツの契約は、いわば「豪華なデザートを少しずつ楽しむ」ようなもの。しかし大谷選手がやったのは、「10年分の主食を全て未来に送って、今はスープだけで戦う」という、誰も想像すらしなかった異次元の選択でした。彼の契約期間中の年俸は、わずか200万ドル(約3億円)にすぎません
(その代わりスポンサー収入はとんでもない額になっていますが)。
決定的な違い②:一部を後回しにするベッツ、「97%」という狂気の数字を叩き出した大谷
契約全体に占める後払いの“割合”も、天と地ほどの差があります。
ベッツの場合、後払い対象は契約金と年俸の一部を合わせた1億8000万ドル。それでも巨額ですが、契約総額の大部分は現役期間中に支払われます。しかし、大谷翔平の場合はどうでしょう?その異常さは、この数字を見れば一目瞭然です。
10年総額7億ドルでドジャースと契約した大谷翔平。その契約総額にも驚かされたが、年俸(7000万ドル)の大半は後払いで、大谷が向こう10年、年俸として受け取るのは200万ドルだけ。残りは34年から43年まで、年6800万ドルずつ受け取るという条件のほうがむしろ、衝撃的に伝えられた。約97%が後払いというのは前例がない。
この「97%後払い」という“狂気”の選択によって、ドジャースの贅沢税計算上のAAVは、本来の7000万ドルから約4600万ドルまで劇的に圧縮されました。この魔法によって生み出された年間2400万ドル以上もの“空きスペース”が、山本由伸やタイラー・グラスノーといった超大型補強を実現させたのです。
決定的な違い③:「個人の安定」か、「チームの勝利」か。契約に込められた魂の差
私が最も重要だと考えるのが、二つの契約に込められた「魂」の違いです。
ムーキー・ベッツの契約は、コロナ禍という特殊な状況で、個人の資産形成と球団の財政を両立させる、非常にクレバーで「相互扶助」的な契約でした。もちろんチームの勝利のためですが、根底には賢明なリスク管理という側面が強くあります。
一方、大谷翔平の契約は、その魂の全てが「チームの勝利」という一点に振り切れています。自分の給料を未来に送り、今使える金をチームに還元することで、最強の布陣を整え、ワールドシリーズを獲る確率を1%でも高めたい――。これは究極の自己犠牲であり、自らの報酬をチームの戦力に再投資するという、前代未聞の意思表示です。
その結果、ドジャースは未来に天文学的な支払いを背負うことになりました。Full-Countの記事が伝える未来予想図は衝撃的です。2043年、球団は48歳の大谷と50歳のベッツに、合わせて7900万ドル(約114億円)を支払うのです。これは、「今の勝利」のためなら未来さえも担保に入れるという、ドジャースの凄まじい覚悟の表れに他なりません。
常勝軍団ドジャースが描く未来図。「後払い契約」はMLBを支配するのか?
ワールドシリーズ制覇の直後、ムーキー・ベッツが受け取った謎の8億円。それは、ドジャースという銀河系軍団がいかにして成り立っているかを示す、象徴的な出来事でした。
ベッツの「契約金分割払い」も、大谷翔平の「年俸97%後払い」も、決して単なる奇策ではありません。これらは、贅沢税というMLBのルールを骨の髄までしゃぶり尽くし、一人でも多くのスター選手を集め、「常勝軍団」であり続けるための、最高レベルの経営戦略なのです。未来の金を前借りしてでも、今の補強予算を最大化し、勝利の確率を高める。その壮大な計画に、球団と選手が一枚岩となって取り組んでいるのです。
もちろん、未来に巨大な負債を先送りするこのモデルは、諸刃の剣です。しかし、「今、勝つんだ」という強烈な意志のもと、大谷やベッツのようなスーパースターたちがこの戦略を喜んで受け入れている。この事実こそが、今のドジャースを絶対王者たらしめている最大の要因なのです。
ドジャースが示したこのモデルは、今後のMLBにおけるチーム作りのゲームチェンジャーとなるかもしれません。選手の生き方や資産形成の常識をも覆す「後払い契約」。その行く末を追いかけることは、現代プロスポーツの金の動きと、勝利への渇望が交差する、最も刺激的な最前線を目撃することと同義なのです。

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