ロシアが日本に対しスパイ行為!今の時代に必要な情報防衛を解説

社会

事件は会議室ではなく、路上で起きている

ロシアの通商代表部元職員が、日本企業の元社員に接触し機密情報を不正に入手した疑いで書類送検されました[1]。このニュースを聞いて、遠い国のスパイ映画のような話だと感じたかもしれません。しかし、その手口は「道案内をお願いします」という日常的な会話から始まる、極めて巧妙なソーシャルエンジニアリングでした。あなたの会社の従業員が、同じように声をかけられたら、機密情報を守り抜けるでしょうか?

なぜ「人の脆弱性」が狙われるのか

今回の事件は、国家が関与する産業スパイ活動が、もはやサイバー攻撃だけに留まらない現実を突きつけています。攻撃者は、システムの脆弱性だけでなく、人間の心理的な隙、つまり「人の脆弱性」を巧みに突いてきます。IPA(情報処理推進機構)の調査によれば、多くの企業が「従業員に対する悪意の第三者(スパイ等)の接触」を重大な脅威と認識しています[2]。情報漏洩は、内部不正がきっかけとなるケースも多く、その被害額は甚大です。JNSA(日本ネットワークセキュリティ協会)の試算では、個人情報漏洩1件あたりの平均想定損害賠償額は6億円を超えるというデータもあります[3]。企業の信頼と事業継続を揺るがすリスクは、すぐ隣に潜んでいるのです。

ソーシャルエンジニアリング:心の鍵を開ける攻撃

ソーシャルエンジニアリングとは、技術的な手段ではなく、人の心理的な隙や行動のミスを利用して機密情報を盗み出す攻撃手法の総称です。今回の事件のように、親切心を悪用する手口はその典型例と言えるでしょう。

主な手口

  • プリテキスティング: 事前に調査した情報をもとに、特定の人物になりすまして信頼させ、情報を引き出す手法。今回の「道案内」もこの一種と考えられます。
  • フィッシング: 金融機関や取引先を装った偽のメールを送りつけ、IDやパスワードを窃取する手口。警察庁の報告でも、フィッシング報告件数は依然として高水準で推移しています[4]
  • ショルダーハッキング: パスワード入力などを肩越しに盗み見る、原始的ですが効果的な手法です。

ある国内メーカーのセキュリティ担当者は、「訓練ではフィッシングメールに気づけても、対面で親切に道を尋ねられたら、つい気を許してしまうかもしれない。その隙を突かれるのが一番怖い」と語ります。このように、人の善意や油断を利用する点がソーシャルエンジニアリングの最も恐ろしい部分です。

衝撃の事実:最大の脅威は「内部」に潜む

多くの企業が外部からのサイバー攻撃対策に注力していますが、IPAの最新調査は驚くべき実態を明らかにしています。企業が最も脅威と感じているのは「ランサムウェアによる被害」ですが、それに次いで「内部不正による情報漏えい」が常に上位にランクインしているのです[5]

さらに、2024年の調査では、営業秘密の漏洩に関する脅威として「従業員、退職者や委託先等による意図的な内部不正」を38.7%の企業が挙げているのに対し、「従業員に対する悪意の第三者(競合企業のスパイ等)の接触」も35.1%と非常に高い割合を占めています[2]。これは、外部の攻撃者が内部の人間を標的にすることが、いかに効果的で現実的な脅威であるかを示しています。

「営業秘密の漏えいに関して最も脅威と感じているものとして、『従業員、退職者や委託先等による意図的な内部不正』(38.7%)が最も多く、次いで『従業員に対する悪意の第三者(競合企業のスパイ等)の接触』(35.1%)が挙げられている。」

IPA:「企業における営業秘密管理に関する実態調査 2024」報告書

考察:セキュリティツールだけでは守れない「最後の砦」

最新のウイルス対策ソフトやファイアウォールを導入していても、産業スパイによる情報窃取を防げないケースは少なくありません。実際、過去に大規模な標的型攻撃を受けた組織のほとんどは、ウイルス対策ソフトを導入していました[6]。なぜなら、攻撃者はシステムの穴だけでなく、「人」という最も弱いリンクを狙ってくるからです。

物理的な入退室管理を厳格にしても、従業員がカフェで機密情報について話してしまえば意味がありません。同様に、従業員が騙されてIDとパスワードを渡してしまえば、強固なサイバーセキュリティも無力化されてしまいます。技術的対策と従業員のセキュリティ意識は、どちらか一方だけでは不十分であり、両方が揃って初めて強固な防御壁となるのです。

今すぐ始めるべき4つの情報防衛策

では、巧妙化する産業スパイから企業の情報資産を守るために、具体的に何をすべきでしょうか。明日からでも着手できる具体的なアクションを4つ提案します。

  1. 継続的なセキュリティ意識向上トレーニング: 一度きりの研修では効果が薄いです。「Kaspersky Security Awareness Platform」[7]や「Fortinet Security Awareness Training」[8]のような実践的なトレーニングサービスを活用し、フィッシング詐欺の模擬訓練などを定期的に実施することが不可欠です。
  2. 多要素認証(MFA)の徹底: IDとパスワードだけでなく、スマートフォンアプリや生体認証などを組み合わせる多要素認証は、不正アクセス対策の基本です[9]。特に重要なシステムへのアクセスには、MFAを必須にしましょう。
  3. 情報資産の棚卸しとアクセス権限の最小化: 誰が、どの情報に、どこまでアクセスできるのかを明確にし、業務上不要なアクセス権限はすべて剥奪します。「知る必要のない従業員は、その情報にアクセスできない」という「 नीड・トゥ・ノウの原則」を徹底することが重要です。
  4. 物理セキュリティと監視の強化: 重要な情報を扱うエリアでは、入退室管理を徹底し、監視カメラのログを定期的に確認する体制を構築します。不審な行動を早期に検知することが、被害の未然防止に繋がります。

結論:情報防衛は、技術と人の「両輪」で実現する

ロシアのスパイ事件は、産業スパイが遠い世界の出来事ではなく、日常に潜む現実的な脅威であることを私たちに突きつけました。高度な技術対策も重要ですが、最終的に情報を守るのは「人」です。技術と人の両輪で防御を固めることこそが、これからの時代に不可欠な経営戦略なのです。

参考文献

  1. 【速報】ロシアのスパイか…通商代表部元職員の30代男を書類送検
  2. IPA:「企業における営業秘密管理に関する実態調査 2024」報告書
  3. NCO: 関係法令Q&Aハンドブック – 情報漏洩時の損害賠償額
  4. 警察庁: 生活様式の変化等に伴うサイバー空間の新たな脅威への対処
  5. IPA: 情報セキュリティ10大脅威 2025 [組織編]
  6. 日経クロステック: サイバー攻撃を防げない理由
  7. カスペルスキー: セキュリティ意識向上トレーニングとは
  8. Fortinet: セキュリティ意識向上トレーニング
  9. IPA: 情報セキュリティ10大脅威 2025 セキュリティ対策の基本と共通脅威対策

※この記事は2026年01月20日時点の情報に基づいて作成されています。

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