奨学金の一括返済、待って!無利子(第一種)なら損する可能性も

マネー

【実話から考える】奨学金120万円の一括返済、親は喜ぶべき?

「夏のボーナスと貯金、全部使って奨学金120万円、一括で返したよ」

誇らしげな息子の報告に、あなたは素直に「偉いね」と言えますか?それとも、手元の現金がほぼゼロになったことへの一抹の不安が、心をよぎりますか?

2025年の夏、ある家庭で実際にあったこの出来事。長年の重荷だった奨学金を自力で完済した息子の成長は、親としてこれ以上ない喜びでしょう。その責任感と行動力は、心から褒めてあげるべきです。

しかし、同時にこうも思うはずです。「もし、今すぐお金が必要になったら…?」「急な病気や会社のトラブル、友人の結婚式が重なったら、この子はどうするのだろう?」と。

この一見、賢明で称賛されるべき行動には、実は見過ごせない「落とし穴」が隠されているかもしれません。この記事は、奨学金という精神的な重荷と、将来の経済的な安心、その両方を手に入れるための「本当の正解」を見つけるための羅針盤です。

その返済、本当に得?「第一種」と「第二種」で全く違う損得勘定

「借金は早く返すに越したことはない」——それは多くの場合、真実です。しかし、奨学金に関しては、あなたがどちらの種類を借りているかで、その「お得度」は天と地ほど変わってきます。

多くの人が利用する日本学生支援機構(JASSO)の奨学金には、大きく分けて2つのタイプがあります。

無利子の「第一種奨学金」の場合

もしあなたの奨学金が「第一種」であれば、それは利息が一切かかりません。つまり、10年後に返しても20年後に返しても、返済総額は借りた額と全く同じです。

この場合、焦って一括返済する経済的なメリットは、実はほとんどありません。むしろ、手元に現金を残しておき、予期せぬ事態に備えたり、資産運用に回したりする方が合理的な選択と言えるかもしれません。

有利子の「第二種奨学金」の場合

一方、「第二種」は利息がかかります。利率は上限3%と定められていますが、早く返せば返すほど、将来支払うはずだった利息分を節約できます。これが、繰上返済の最大のメリットです。

例えば、残高120万円、利率1.0%、残り10年で返済予定だったとしましょう。繰り上げずに返済し続けた場合の利息総額は、およそ6万円以上になります。一括返済すれば、この約6万円を支払わずに済むのです。

【あなたの共感ポイント】
「毎月引き落とされる奨学金。通帳を見るたびに、見えない重荷を感じている方も多いのではないでしょうか。その気持ち、痛いほどわかります。『早く返してスッキリしたい!』その一心で頑張ることは、決して間違いではありません。」

しかし、たとえ第二種奨学金であっても、「じゃあ、すぐに一括返済しよう!」と結論づけるのは早計です。次にご紹介する「見えないリスク」を必ず確認してください。

メリットだけじゃない!一括返済の「3つの見えないリスク」と「本当のメリット」

感情的な解放感と経済的なメリットの裏には、無視できないリスクが潜んでいます。天秤にかけて、冷静に判断しましょう。

【メリット】

  • 支払利息の軽減:(第二種の場合)将来支払うはずだった利息がなくなり、返済総額が減る。
  • 精神的な解放感:「借金がある」という心理的負担から解放され、気持ちが軽くなる。これは何物にも代えがたい価値があります。
  • 信用の向上:完済することで、住宅ローンなど新たな借り入れの際に、審査で有利に働く可能性があります。

【3つの見えないリスク】

  1. 緊急対応資金の枯渇:最大のデメリットです。病気、ケガ、失業、災害…。人生には予測不能な事態がつきものです。そんな時に頼れる貯金がなければ、もっと金利の高いカードローンなどに手を出すしかなくなり、本末転倒になりかねません。最低でも生活費の3ヶ月〜半年分は「生活防衛資金」として、何があっても手をつけないのが鉄則です。
  2. 機会損失(チャンス・ロス):手元に120万円があれば、何ができたでしょうか?例えば、年間4%の利回りが期待できる資産運用(つみたてNISAなど)に回していたら、1年で約4.8万円の利益を生んだかもしれません。奨学金の金利(例:1%)より高いリターンが期待できるなら、「返済せずに運用する」方が、資産を増やす上では賢い選択となる可能性があります。
  3. インフレへの対応力低下:将来、物価が上昇(インフレ)すると、お金の価値は相対的に目減りします。つまり、10年後の1万円は、今の1万円より価値が低いかもしれません。これは、借金の実質的な負担が軽くなることを意味します。価値のある「今のお金」を急いで返済に充ててしまうと、この恩恵を受けられなくなります。

あなたはどっち?【5分で診断】一括返済すべき人・すべきでない人の分岐点

ご自身の状況を客観的に見つめ直してみましょう。あなたはどちらのタイプに近いですか?

✅ 一括返済を積極的に検討しても良い人

  • □ 返済後も、生活費の半年分以上の貯蓄(生活防衛資金)が手元に残る
  • □ 奨学金は「第二種」で、金利が比較的高い(1%以上など)
  • □ 収入が非常に安定しており、向こう数年の大きな支出(結婚・住宅購入など)の目処が立っている
  • □ 「借金がある」という状態が、仕事や生活に支障をきたすほどの精神的ストレスになっている

⚠️ 今は待つべき!慎重に考えるべき人

  • □ 返済すると、貯蓄がほぼゼロか、生活費3ヶ月分以下になってしまう
  • □ 奨学金は「第一種」(無利子)である
  • □ 転職、独立、留学などを考えており、今後収入が不安定になる可能性がある
  • □ 近々、結婚、出産、引越しなど、まとまったお金が必要なライフイベントを控えている
  • □ 資産運用に関心があり、手元の資金を「増やす」ことに使いたい

【あなたの共感ポイント】
「『早く返してスッキリしたい』という気持ちと、『でも、もしもの時にお金がなかったら…』という不安。その間で揺れ動くのは、あなたが真剣に自分の将来を考えている証拠です。どちらの感情も、あなたの大切な一部なのです。」

「全額返済」だけが答えじゃない!賢い人が選ぶ「一部繰上返済」という選択肢

ここまで読んで、「一括返済はリスクが高いかも…でも、何もしないのも…」と感じた方も多いのではないでしょうか。

そんなあなたにこそ知ってほしいのが、「一部繰上返済」という第三の道です。

これは、ボーナスの一部や、余裕のある月の資金などを使って、返済額の一部を前倒しで支払う方法です。JASSOの奨学金の場合、繰り上げた分はすべて元金(借りたお金そのもの)の返済に充てられるため、その元金にかかるはずだった将来の利息を効果的に減らすことができます。

【一部繰上返済のメリット】

  • リスクを抑えながら利息を軽減できる:生活防衛資金はしっかり確保したまま、余剰資金だけで返済を進められます。
  • 精神的な達成感も得られる:「自分で返済をコントロールしている」という感覚が、着実に借金が減っていく喜びにつながります。
  • 柔軟性が高い:「今回は10万円だけ」「ボーナスが出たら30万円」など、自分のペースで自由に行えます。

例えば、120万円を全額返済するのではなく、「まずは40万円だけ繰り上げて、残りの80万円は貯金と投資に回そう」といった、バランスの取れた戦略が可能になるのです。

詳しい手続きは、日本学生支援機構(JASSO)のウェブサイトで確認できます。インターネット(スカラネット・パーソナル)から簡単に申し込みが可能です。

日本学生支援機構:繰上返還

結論:後悔しないために。あなたの「奨学金返済プラン」最適化への第一歩

冒頭の「ボーナスと貯金で120万円を一括返済した息子さん」。彼の行動は、決して間違いではありません。しかし、それが誰にとっても「最適解」とは限らないのです。

奨学金返済で後悔しないための結論は、ただ一つ。

「手元の現金をゼロにするリスク」と「利息を払い続けるコスト」を天秤にかけ、あなた自身のライフプランに合ったバランス点を見つけること。

「借金からの解放」という目標は素晴らしいものですが、それはあくまで「将来のあなたが安心して、自分らしく生きる」という、もっと大きな目的を達成するための手段の一つです。

この記事を読み終えた今、ぜひあなたの第一歩を踏み出してください。

  1. ご自身の奨学金が「第一種」か「第二種」か、利率は何%かを確認する。
  2. 生活費の半年分の「生活防衛資金」がいくらか計算し、現在の貯蓄額と比較する。
  3. その上で、「全額返済」「一部繰上返済」「今まで通り返済」のどれが今の自分に最も合っているか、考えてみる。

この小さな一歩が、あなたの未来をより豊かで安心なものに変えていくはずです。焦らず、あなたのペースで、最適な返済プランを築いていきましょう。

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