山本由伸、体調不良説の真相は?完投勝利の裏側を語る一問一答

完投勝利した試合で、マウンドに集まった捕手らと笑顔で話す山本由伸投手。試合後の一問一答で語られた場面。 スポーツ
試合中に見られた一場面。この時の心境も一問一答で明かされている。

この記事のポイント

  • なぜ山本由伸はどん底から這い上がれたのか?ポストシーズンでの歴史的完投劇の裏には、緻密な戦略修正と「失敗」を力に変える驚異的なメンタリティがあった。
  • 悪夢の「初球被弾」は、実は最高のデータだった。相手の積極性を逆手に取ることで、山本はたった1球で試合の主導権を握り返した。
  • 5回に見せた「謎の間」の真相とは?体調不良説が流れる中、監督を動かしたのは、彼の“言葉にならない覚悟”と揺るぎない信頼関係だった。
  • 「7月のKO劇は壮大な伏線だった」――コーチや仲間との対話を通じて過去の失敗を完璧なシナリオに昇華させた学習能力こそ、彼を真のエースにした原動力だ。

なぜ彼は「悪夢の1球」「伝説の序章」に変えられたのか?

2025年10月15日(日本時間)、敵地ミルウォーキーでのナ・リーグ優勝決定シリーズ第2戦。ドジャース・山本由伸が投じたこの日最初の1球は、無情にもスタンドに吸い込まれた。しかし、マウンド上の男だけは、誰よりも冷静だった。これは、一人の投手が過去の屈辱を乗り越え、「本物」へと変貌を遂げた、知的な戦いの記録なのである。

この記事では、試合後の山本由伸の一問一答を深く読み解いていく。悪夢の幕開けを、なぜ彼は最高のスタートに変えられたのか?監督との間にあった「見えない絆」とは何だったのか?数々のドラマの裏に隠された、彼の思考法と成長の軌跡を目撃してほしい。

「またか…」悪夢の初球被弾は、なぜ最高の“一手”になったのか?

わずか1球で蘇るトラウマ。しかし、彼の頭脳はすでに次のフェーズへ

プレーボールのサイレンが鳴り響いた直後、球場は歓声とため息に包まれた。山本が投じた96.9マイル(約155.9キロ)のストレートを、ブルワーズの1番・チョウリオが完璧に捉える。試合開始わずか1球での先制被弾。あなたの脳裏にも、あの7月の悪夢がよぎったのではないだろうか。スポニチアネックスの記事でも報じられた通り、山本は同じ相手に日米通じて自己最短となる2/3回で5失点KOという屈辱を味わっているのだから。

だが、絶望の淵に立たされたはずの男は、驚くほど冷静だった。試合後、彼はこう振り返る。

1人目のバッターだったので、すごい悔しかったんですけど、とにかく切り替えて次のバッターに投げていきました

Full-Count「山本由伸、試合途中で「体調を心配された」 捕手らがマウンド集結…苦笑いの一問一答」


「切り替えて」
――このありふれた言葉にこそ、彼の『進化』のすべてが詰まっていた。それは根性論などではない。前回登板という「最悪の失敗」から導き出した、極めてロジカルな戦略的修正だったのだ。

「積極性」を逆手に取れ!失敗から導き出した必勝の方程式

山本は、過去の失敗を忘れていなかった。特に、同じくポストシーズンで苦杯をなめたフィリーズ戦の反省は大きかった。スポーツナビに掲載された丹羽政善氏のコラムによれば、その試合では彼の生命線であるカーブとスプリットで1球も空振りを奪えなかったという。相手が彼のウイニングショットを完全に見切り、手を出さない戦略を徹底していたからだ。

この教訓を胸に、彼はブルワーズ打線との対峙の仕方を変えた。「今日は色々なボールを使っていけた」「立ち上がり、すごく積極的に来ているのは感じていたので、そこで有効なボールをいいところに投げていけた」。彼の言葉が、その変化を物語る。初球にホームランを浴びたことで、「やはり、今日も彼らは早いカウントから振ってくる」という確信を得た。ならば、とその積極性を逆手に取ることにしたのだ。

力と力で勝負するのではない。あえて打たせて取る投球、意表を突く緩急で打者の目線をずらすクレバーなピッチング。これが面白いようにハマり、5回までわずか65球という省エネ投球に繋がった。そう、あの初球被弾は、最悪のスタートであると同時に、相手の戦略を丸裸にする最高のデータ収集の瞬間でもあったのだ。

マウンドに駆け寄る監督――なぜ彼は山本由伸を交代させなかったのか?

故障か?アクシデントか?あの「謎の間」の真相

試合の空気が再び張り詰めたのは5回。山本が1死から四球を与えた場面で、捕手や内野手がマウンドに集まり、ロバーツ監督もベンチから腰を浮かせた。テレビの前で、あなたも固唾をのんで見守っていたのではないだろうか。「まさか、故障か…?」しかし、これもまた杞憂に終わる。試合後、彼は笑いながらあの場面の裏側を明かしてくれた。

初球スプリットのサインだったんですけど、あんまりこう、初球振ってくると思わなかったので、ゾーンにゆっくりゆっくりというか、ちょっとスピードを落としたスプリットを投げたかったんですけど、結果うまくいかず。その違和感で体調を心配されたとか、はい、そういう感じで。まあ問題は全くないですけど

Full-Count「山本由伸、試合途中で「体調を心配された」 捕手らがマウンド集結…苦笑いの一問一答」

つまり、体調の問題ではなく、自らの「理想」「現実」の間に生じた、コンマ数秒のズレ。完璧主義者の彼だからこその「違和感」が、周囲に心配をかけてしまったというわけだ。だが、この一連のやり取りこそ、山本と首脳陣の間に築かれた深い信頼関係を、何よりも雄弁に物語っていた。

「彼が一番だ」――指揮官にそう言わしめた、数字には表れない絶対的信頼

一度は心配そうに身を乗り出したデーブ・ロバーツ監督だったが、その後の山本の姿を見て、疑いは確信へと変わった。8回を投げ終え97球。多くの監督ならブルペンに電話をかける場面で、彼は迷いなく山本を9回のマウンドへと送り出したのだ。

なぜ、続投させられたのか?その答えは、指揮官の言葉の中にあった。Full-Countの記事が伝える監督のコメントは、まさに信頼の証だ。

「今年は、彼は私からの本当の信頼を得ている」「相手打線が(試合の中で)3巡目に入り、球数が90球になった時点でも、彼が一番の選択肢だと彼自身が感じている。それが私の(山本に対しての)自信にもつながった」

さらにスポニチアネックスの報道では、決断の瞬間を「いえいえ、そんなことはありませんでした。あの時点での山本の投げっぷりを見れば、9回も行かせるのが自然だった」と断言している。監督が見ていたのは、球数やデータではない。マウンドから溢れ出る「俺がこの試合を決める」という、声なきオーラだったのだ。

この信頼は、メジャー1年目の彼にはなかったものだ。監督自身が「昨年は才能のあるブルペンに頼っていた」と認めるように、今季の山本はシーズンを通した圧巻の投球で、「最後までマウンドを託すに値する男」という評価を、自らの右腕で勝ち取ったのである。

「俺はまだ成長できる」――最強軍団ドジャースが山本由伸にもたらした“最後のピース”とは?

「7月のKO劇は、壮大な“伏線”だった」失敗を設計図に変える恐るべき学習能力

「今日の試合でも自分の成長はすごく感じました」。試合後の彼の言葉だ。この飽くなき向上心の源泉はどこにあるのか。それは、彼の恐るべき学習能力と、それを最大限に引き出すドジャースという環境にある。

私が特に注目したいのは、彼が7月のKO劇をどう捉えていたか、という点だ。彼は、あの失敗を徹底的に分析し尽くしていた。彼は言う。「コーチやウィル(・スミス捕手)の意見とか、いろんな意見を聞きながら組み立てをしました」と。

自分の感覚だけを信じるのではなく、客観的なデータ、経験豊富なコーチ、そしてバッテリーを組む相棒の意見に素直に耳を傾ける。この柔軟性こそが、同じ相手に全く違う結果を生み出す原動力となった。そう、7月のKOは、ただの負け試合ではなかった。それはブルワーズ打線を研究し尽くし、今回の完投劇という完璧なシナリオを描くための、いわば「壮大な伏線」だったのである。

「スネルが投げれば、俺もいける」エースがエースを育てる、ドジャースの好循環

山本を突き動かすもう一つの力。それは、ドジャースが誇る超一流の同僚たちの存在だ。彼は、チームメイトから受ける刺激を隠そうともしない。

みんな、すごいいいピッチングをしているので、そのリズムに乗ったり、昨日もスネルがすごくいいピッチングをしていたので、自分もなんかいけるぞっていう気持ちになりましたし、結果以上にいい効果を得たというのかな、と。そういったのが感じています

Full-Count「山本由伸、試合途中で「体調を心配された」 捕手らがマウンド集結…苦笑いの一問一答」

ハイレベルな環境をプレッシャーではなく、「自分もできる」というポジティブなエネルギーに変える力。エースの快投が、次のエースの魂に火をつける。それはまるで、偉大なアーティストたちが互いにインスピレーションを与え合うセッションのようだ。コーチとの対話による「戦術的深化」と、仲間との切磋琢磨による「精神的昂揚」。この両輪が、山本由伸をメジャー最強のエースへと、猛スピードで進化させているのだ。

山本由伸はなぜ「真のエース」になれたのか?歴史的快投が我々に教えてくれたこと

山本由伸がポストシーズンで見せたメジャー初完投は、彼のキャリアにおける、まぎれもない金字塔だ。そしてこの一戦を振り返るとき、私たちは気づかされる。「真のエース」を定義するものは、もはや球速や変化球のキレだけではないのだと。

それは、逆境を瞬時にチャンスへと変える「精神力」
過去の失敗を完璧な成功への設計図とする「修正能力」
仲間の声に耳を傾け、最善の答えを導き出す「柔軟性」
そして、誰もがマウンドを託したくなる「人間力」

これらすべてを兼ね備えた者だけが、チームを世界の頂点に導く「真のエース」と呼ばれる資格を持つ。試合後の山本由伸の一問一答は、彼がその領域に足を踏み入れたことを、何よりも証明していた。「こっちに来て初めてだったので、すごい達成感を感じました」。勝利の瞬間をマウンドで味わった彼の言葉には、本物だけが持つ確かな手応えが滲んでいた。

この歴史的な夜は、まだ序章に過ぎない。失敗を燃料に、仲間を力に変えて進化し続ける怪物――
山本由伸の物語は、まだ始まったばかりだ。

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